まあ、とりあえず言うだけ言って「いや、この後も仕事」とか言えばそれでいいし、とにかく帰る道が見つかる。

「ああ、いいね。冷たい飲み物かなんか欲しいなと思ってたとこ」

ってホントですか!!?!?

「えーと、あーと、じゃあ、こ、この辺ってどっかお店あるのかな……」

「すぐそこにね、美味しいところがあるんだよ。行く?」

「え、あっ、は、そうですね」

 いやあ……慣れてるなあ……初対面との会話。すげえややっぱ芸能人。

 ホテルを出て信号を渡るとすぐ角にある店。あ、なんだここなら知ってる。

「ここね、僕好きなんだ」

 さすがグルメな芸能人!!

「あ、そうなんですか……」

 甘い物を食べながら……会話? うわあ……大丈夫かなあ……。

 店内は空いており一番奥の席をとり、ハルトおススメというパフェをほぼ勝手に一つとアイス紅茶を注文する、というか、される。

「さっきのお店、美味しかったね」

「え、あ、そうですね……」

 冷や汗をかいているのが自分でもよくわかる。

「……吉田さんどうしたんですかね、突然ぎっくり腰だなんて。何したんでしょう」

「(笑)、昨日機材の模様替えするとか言ってたから、それでじゃないのかな。無理に重い物持ったんでしょ」

「ああ……えー、あれ、かなり大きくないですか?」

「大きい大きい、あんなのね、とても一人じゃ運べないと思うけどね。……家はよく行くの?」

「えーと、いえそんな頻繁には、何度か行ったことあるくらいです」

 頑張れ私、会話を続かせるんだ!!

「……吉田さんてホントに彼女いないんですか?」

「狙ってんの?」

 いや、単なる話題づくりです!!

「いやっ、私は別にあれなんですけど、いや……もういい年なのにと思って(笑)」

「あー、僕同級生なんだけどね」

 しまった!!

「今はいない時期って感じなんじゃないのかな」

「ああ、はあ、そうなんですか……」

 いちいち汗をかかせる男である。

「けど私、ここ3年くらいでずっと見たことないですけど……」

 思い出しても何も思い浮かばないが、とりあえず宙を見ながら言う。

「あ、付き合い長いんだ」

「えーと、まあ……私の上司のお得意様だったんですよ。私、ホームエレクトロニクスで働いてるんですけど」

「え、あ、電気屋さん?」

「はい」

「へー、あ、そうだったんだー」

「はい。で、上司がいないときにたまたま接客したのがきっかけで、プライベートでも時々食事したりするんですけどね」

「へえええー、ユウジにそんな子がいたとは……」

「いや、別に……ただの知り合いですけど」

「友達じゃなくて?」

「え、うーん、……微妙ですよね(笑)」

 そこでパフェが運ばれてくる。

「うわあ、美味しそう!!」

「食べきれるかな……」

「私は平気ですよ」

 ハルトは紅茶で喉を潤し始める。

「この後はお仕事ですか?」

「いや、今日はもう終わり。朝だけだから。この後はユウジんちとりあえず行ってみようかなあ」

「あ、そうですね」

 と言いながら「いや、一緒にってわけじゃないから!!」と大きく心の中で叫ぶ。

「一緒に行く?」

「……」

 な、なんて軽いんだ芸能人!!

「え、あ、はは、そうですね……」 

 とりあえず相槌のつもり。そうこれは返事ではなくて、ただの相槌なのだ!!

 ってか口でかいなあ、この人。やっぱり大声で歌ってると唇が延びてくるのかな。

「今日は仕事休みだったの?」

「そうです、珍しく三連休です! 旅行くらい行けますよ、ほんとに」

「いいねー、三連休かあ……僕もほしいなあ……」

「旅行とか行きたいですよねー」

「プライベートの旅行なんてしばらく行ってないからなあ……。あのね……」

としばらく、海外のこんな島がよかったとか、どうだったとか、まあ、一般人にはあんまり関係ない情報をたくさん提供してくれた。

「いいですねー……」

 と言いながら、食べるふり。

「あそうだ。ユウジにケーキお土産持っていこうか」

「あ、いいですね」

ってまあ私も同じこと考えてましたけど。

「せっかくだからホールで持って行ってあげません?」

「でかいの?」

「なんか嬉しくないですか、その方が」

「食べきれるかなあ」

「きっと食べますよ、ユウジさんなら。腰が痛いだけだからおなかはすいてますよ。しかもここの美味しいし」

「じゃ、そうしよっか。何がいいかなー」

 とメニューを広げる。

「ユウジさん何が好きでしょう?」

「なんでもいんじゃない?」

「じゃあ……チョコレートで」

「自分の趣味?(笑)」

「一般受けする、チョコレートです」

 とりあえず、笑う。

「チョコレートケーキね……まあ、一般受けはいい方かなー」

 一般受けを狙うなら間違いなく生クリームのいちごだ。

 で、一度ハルトがトイレに立って、さあ会計だ。大丈夫。ケーキ代3千円を入れてもパフェ一つと紅茶一杯で4千円ちょっと……ってかさっきのランチより高いな……。

 まあ、誘ったのは私だ!!

 と、レジ前に行くと、ハルトは店員が差し出した箱をすぐに受け取った。

「行こう」

「えっ、お金……」

「払っといたよ」

 ……え゛―、いつの間に……!!!

「え、あ、すみません!!」

 謝りながら自動ドアを抜ける。

「いいよ、このくらい」

 まあ、確かにそういわれれば、あなたにとって5千円くらいドブに捨てられるくらいのお金でしょうね。

「ありがとうございます。二度も。ご馳走様でした」

 とりあえずお辞儀したつもりだが、彼はこちらを見ていない。

「車こっち」