「ありがとうございました。ほんとに」
「あ゛―もうほんま大出費や」
大手チェーン店のカフェで、2人は紙切れ1枚のためにコーヒーを飲んでいた。
葉月は多くの場合、紙切れよりもコーヒーを飲む時間のために出てきているのだが、今日は紙切れのために出てきたのである。
相手は……友人……知人……職場の人……どれも違うような気がする。
背が高く、ひょろっとした色白で茶髪の今風の男は、見た目のわりに年をとっており、今年37になるらしい。
初めて会ったのは、もう5年も前のことになる。
そのときのことを思い出しても、それほど外見は変わっていない。多少、髪型が変わったくらいか。
彼は、大手家電専門店に勤めていた私の前に、客として現れたのだった。
AV製品を目的に買い物に来ていた彼にとって、雑務担当の香月は全く無能な店員だったが、とあることがきっかけで、営業時間外に会うようにまでなったのである。
「そういえば、ユウジさんとももう5年くらいですね。出会って」
「えーそんななる? あ、そうかあ。パソコン買った時やからな、そうなるか……あ、電話や」
もちろん彼は私の恋人ではない。
彼はかかってきた電話に簡単に出て、困ったような声を散々出した後、沈黙したと思ったら、あらゆることを妥協して、納得したような返事をし、電話を切った。
聞いていないふりをしていても、もちろん目の前にいるのだから声が聞こえてしまう。
「あのな……」
意外にも彼はこちらに向かって、その仕方なく了承した内容を話そうとした。
「え、何?」
「今から暇?」
「へ……今から? まあ、もう家かえるつもりだけど……」
時刻は午後7時。この逢瀬自体を食事にしても良かったのだが、この後彼が飲み会に行くことを知っていたので、あえてコーヒーで済ませることにしたのである。つまり私は、これから自宅へ戻って、食事の支度をする予定であった。
「あの、一緒にこーへん? 飲みに」
「え゛―!?……」
「いやまあ突然なんやけど、その……」
「合コンで人数が足りないの?」
「いや、合コンやないんよ。ただそんな男女の人数とかあわせてるわけじゃないし」
「うん」
「奢るし!!」
「えー……だって、知らない人ばっかりだし」
「俺がいてるよ!!」
その、どうでもよい自信にため息が出てしまう。
「えー、えー……家帰ってご飯作るの面倒だけどお……。業界の人?」
「も、いてる。あの、ハルももちろんいてるから!!」
「えー……あんまり……。ハルトさんってやっぱりちょっと怖いのよね……」
「大丈夫、噛み付かへんって」
「え、なんでそんな誘いたいの? 人数足りないから誰かつれてこいって言われたの?」
「いやまあ、それに近いような遠いような……。でもまあ、ほんまに嫌やったらえんよ。俺も殺されるわけやないし」
「殺されるってそんな大げさな……」
ユウジはすぐに顔に悲惨な表情を大げさに出す。
「いいよ、行ってあげる」
「え、ほんま? ええんよ、そんな無理せんで……」
「どっちよ(笑)。いいよ、ご飯ただで食べられると思って行くから」
「そらもう!! 大食いしてちょうだい!」
ユウジははしゃぐとすぐにスマートフォンで相手に連絡を取り出した。私は業界人がどういうのかは全く知らないが、ユウジという強い存在がある限り大丈夫だと信じて付いていくことに決めた。
「私たち、友達なんだから、いざというときは助けてくださいね」
一瞬、無茶振りに困った私を捨てるユウジの図が浮かんだので先に釘を刺しておく。
「え、ああうん。もちろんよ!」
動揺したせいだろう、彼は早口になった。
「あ゛―もうほんま大出費や」
大手チェーン店のカフェで、2人は紙切れ1枚のためにコーヒーを飲んでいた。
葉月は多くの場合、紙切れよりもコーヒーを飲む時間のために出てきているのだが、今日は紙切れのために出てきたのである。
相手は……友人……知人……職場の人……どれも違うような気がする。
背が高く、ひょろっとした色白で茶髪の今風の男は、見た目のわりに年をとっており、今年37になるらしい。
初めて会ったのは、もう5年も前のことになる。
そのときのことを思い出しても、それほど外見は変わっていない。多少、髪型が変わったくらいか。
彼は、大手家電専門店に勤めていた私の前に、客として現れたのだった。
AV製品を目的に買い物に来ていた彼にとって、雑務担当の香月は全く無能な店員だったが、とあることがきっかけで、営業時間外に会うようにまでなったのである。
「そういえば、ユウジさんとももう5年くらいですね。出会って」
「えーそんななる? あ、そうかあ。パソコン買った時やからな、そうなるか……あ、電話や」
もちろん彼は私の恋人ではない。
彼はかかってきた電話に簡単に出て、困ったような声を散々出した後、沈黙したと思ったら、あらゆることを妥協して、納得したような返事をし、電話を切った。
聞いていないふりをしていても、もちろん目の前にいるのだから声が聞こえてしまう。
「あのな……」
意外にも彼はこちらに向かって、その仕方なく了承した内容を話そうとした。
「え、何?」
「今から暇?」
「へ……今から? まあ、もう家かえるつもりだけど……」
時刻は午後7時。この逢瀬自体を食事にしても良かったのだが、この後彼が飲み会に行くことを知っていたので、あえてコーヒーで済ませることにしたのである。つまり私は、これから自宅へ戻って、食事の支度をする予定であった。
「あの、一緒にこーへん? 飲みに」
「え゛―!?……」
「いやまあ突然なんやけど、その……」
「合コンで人数が足りないの?」
「いや、合コンやないんよ。ただそんな男女の人数とかあわせてるわけじゃないし」
「うん」
「奢るし!!」
「えー……だって、知らない人ばっかりだし」
「俺がいてるよ!!」
その、どうでもよい自信にため息が出てしまう。
「えー、えー……家帰ってご飯作るの面倒だけどお……。業界の人?」
「も、いてる。あの、ハルももちろんいてるから!!」
「えー……あんまり……。ハルトさんってやっぱりちょっと怖いのよね……」
「大丈夫、噛み付かへんって」
「え、なんでそんな誘いたいの? 人数足りないから誰かつれてこいって言われたの?」
「いやまあ、それに近いような遠いような……。でもまあ、ほんまに嫌やったらえんよ。俺も殺されるわけやないし」
「殺されるってそんな大げさな……」
ユウジはすぐに顔に悲惨な表情を大げさに出す。
「いいよ、行ってあげる」
「え、ほんま? ええんよ、そんな無理せんで……」
「どっちよ(笑)。いいよ、ご飯ただで食べられると思って行くから」
「そらもう!! 大食いしてちょうだい!」
ユウジははしゃぐとすぐにスマートフォンで相手に連絡を取り出した。私は業界人がどういうのかは全く知らないが、ユウジという強い存在がある限り大丈夫だと信じて付いていくことに決めた。
「私たち、友達なんだから、いざというときは助けてくださいね」
一瞬、無茶振りに困った私を捨てるユウジの図が浮かんだので先に釘を刺しておく。
「え、ああうん。もちろんよ!」
動揺したせいだろう、彼は早口になった。