木崎の家につく。
玄関へ向かうと線香の匂いがする。

呼び鈴を鳴らすとバタバタと足音がして
木崎が『はい?』と出てきた。

俺の顔を見ると木崎は堰を切ったように俺の胸に飛び込んできて泣き出した。

木崎をこうやって抱き締めたのは何年ぶりだろう。

気づけば俺は45になっていた。
すると木崎は30…
俺が木崎を送り出したのと同じ歳に木崎はなっていた。

木崎の泣き声を聞いて小さな男の子が
『かなちゃんどうしたの?』
と部屋の奥から出てきた。

その声を聞くと木崎は涙を拭き
『大丈夫!大丈夫!かなちゃんの昔教わった先生だよ』
と気丈に笑った。

『ありがとうございます…』
と俺に向き直り頭を下げると中に案内してくれた。

『お前の子か?』
『いや、甥っ子。私独身だもの。
シングルマザーでもないし』

中に入ると木崎のお父さんがかなり憔悴した様子で挨拶してくれた。
木崎のお姉さんは泣きわめいている。
それを見ておろおろしているさっきの男の子を木崎は抱き抱え
『ユウマ、大丈夫。ママ悲しいのよ。
ユウマにはかなちゃんついてるから。』
となだめている。

『うちの姉貴、私と違って打たれ弱いから。
泣くなら勝手に泣いててもらっていいんだけど、この子がね…』
と抱いている甥っ子を気にしている。

お客さんは次々やって来る。
木崎がひとりで家の中を回している状態だった。