不思議に思いながらも翼の親指を見ると、僅かに濡れていて。
それで初めて自分が涙を流してることに気がついた。
慌てて自分の目元を拭おうと右腕を顔の位置まで上げると、翼にやんわり腕を掴まれた。
「翼……?」
翼はあたしと目を合わせると、そのまま優しい笑みを見せた。
「泣けばいいよ」
「え……」
「我慢する必要なんて……強がる必要なんてないんだから。
辛い時は素直に泣いておくのが一番」
だろ?と少し得意気に言う翼。
「っ…………………」
「あー、分かった。
俺、後ろ向いてるから。
だから、いいよ。
思いっきり泣いて」
そう言って翼はあたしに背を向ける。
大きな背中。
小さい頃はあたしと対して変わらなかったのに。
いつの間にか大きくなってしまった……背中。
「っ……ぅっ……ふぇっ………」
……あたしはその場にしゃがみこみ、思い切り涙を流した。
ついこの前も泣いたばかりなのに。
留まることを知らないあたしの涙はポロポロと零れてくる。
翼はあたしが泣きやむまで、背を向けたまま……だけど、ずっとそばにいてくれた。
それが今のあたしにはちょうどよい他人との距離だった。