女性から目を離せないでいる私の左手に
重なったぬくもり。


ぎゅっ、と温かさが手のひらに移った。


『……帰ろう、悠』



—————帰ろう?



「どこ…に…?」

『え?』


しまった…っ


「っ…、な、なんでも…ない…」


無意識に口をついて出た言葉を
必死に隠す。が。


『悠、なんかおかしいよ』


莉央が見逃すはずはなかった。


「お、かしくなんかない」

『おかしいよ、学校で何かあった?』

「っ…、何も…」



何も、なかった。……なんて嘘。

何かあった、なんてものじゃない。
私の頭の中はもう、夏でいっぱいだ。


でも、夏のことを莉央に知られては
いけないから…っ


『悠…?』

「何も、ないから。本当に」


眸は合わせられなかった。


「ちょっと疲れたのかも。だから」



だから、お願い。



「早く、帰ろう。“私たち”の家に」



————…嘘に気付かないで。