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「(藤乃…先輩)」


彼女はいつも、彼の隣にいた。

隣でその艶やかな黒髪を揺らしながら
彼を見上げて微笑む姿を後ろで見るのが
とても好きで、その後は決まって2人で
振り向いて…



『……悠っ…!』


「っ!」



強い力で腕を引かれて、身体が後ろに
傾いた。突然のことで息が詰まって
眸を瞬かせていると。


『あ、ぶなかった…っ』


「莉央…?」


私はいつの間にか莉央の胸に顔を
埋めて抱き締められていた。


莉央の鼓動が近くで聴こえる。


…あれ?でもなんでここに?


「莉央、何して…」

『何してるのは、俺の台詞だって!』

「っ、」


身体を離されて見えた莉央は焦っている
ような、心配しているような、とにかく
色々な感情が交ざった表情をしていた。


『今日の仕事早く上がれて帰ってたら
目の前にふらふら歩く悠見つけて、名前
呼んでも気付かないし…。終いには赤信号なのに渡ろうとするし…』


「え…?」


よくよく周りを見れば、私は大通りの
横断歩道に立っていて。


何台も行き交う車。
歩行者信号は赤く点滅していた。


「っ、」


いつの間に…こんなところに…っ