「まあ飲め。少しは飲めるんだろ?」
「……家では飲んだことなくて」
「いいから飲め。十六なら少しくらい飲んでもいいだろー?」

 床にぺたりと座り込んで、エディはカップに注がれた酒を睨み付けた。一息にカップを空にして、喉を流れ落ちる熱に顔をしかめる。

「飲みなれないか? まあ、そのうち慣れるさ」

 誰かがエディの肩を叩き、お代わりをカップに注いだ。

 それから数十分後。オーウェンは隅で飲んでいたはずのエディの姿が消え失せているのに気が付いた。

「エディは?」
「寝てる」

 見れば部屋の隅でエディが丸くなっている。

「――酒の方はてんでだめなんだな」
「子どもだからだろ」

 丸まっているエディの顔は少し幼く見える。考えてみればまだ大人にはなりきってないのだなぁと、たいして変わらない年のくせにオーウェンたちはエディを微笑ましく見守る気になっていた。

 エディ・ウィルクスが、病弱な兄に代わって入団してきた伯爵令嬢である――ということを彼らが知るのはそれから数日後のこと。

 偶然着替えを見てしまったオーウェンが真っ青になって、ついうっかり口を滑らせたのがきっかけであるが、エディは何も知らない。