「あのっ!」

「!」

ハッと我に返る。

「あのっ…」

「あっ、ごめん…。」

夢じゃなかった…。

ただ、思い出の世界に入っていただけだった。

あのあと、彼女の病室まで案内して

飲み物でも買いに行くかという話になり、

2人で自販機でジュースを買い

彼女の病室の椅子に座っているのだった。

「話し掛けても何にも返してくれなかったか

ら…。大きな声だしてごめんなさい。」

「いや…。考え事してて、ごめん。」

「あの…。」

「?」 

「お名前、教えてもらっても?」

「えっ?あぁ。俺は爽。」

「そう、さん?」

「滝澤 爽(たきざわ そう)。」

「爽さん…。」

「えっと、君は?」

「私は、最上 仁奈(もがみ にな)っていいま

す。」

「へぇ…。綺麗な名前だね。」

「ありがとうございます。」

そう言って、また彼女は笑った。

その笑顔を見ると、伊勢を思い出してしまいそ

うで顔を逸らした。

そして、気がつかないうちに

仁奈の中に伊勢を重ねている自分がいたー。