また、眠りに落ちていく。

そんな時だった。

ガラッ…

扉が開く音がしたのだ。

「?」

疑問に思い、扉の方を見ると

1人の女の子が立っていた。

(なんで、こんなところに?)

自分の知り合いではない。

(部屋、間違えたのか…。)

そう思ったが、自分に気がつかないのか

少女は部屋に一歩足を進めた。

「…おい。」

ベッドから起き上がり、声をかける。

すると、驚いたように体を硬直させ

「!」

バランスを崩したのか尻餅をついた。

「…はぁ…。誰だよ、お前。」

「えっ!?あの、その…。」

「部屋、間違えたんじゃないの?ここ、俺の部

屋だから。」

「あっ、そうなの!?ごめんなさい、間違えたみ

たいで…」

慌てて立ち上がろうとしていたが、

壁に肩を少しぶつけただけで

まだ床にしゃがみ込んだままだ。

(どんくさいにもほどがあるだろ…。)

ベッドから降りて、

いまだに立ち上がれないでいる女のもとに

行き、手を差し出す。

「…ったく、ほら。」

しかし、女は一向につかまろうとしない。

(俺の好意を無駄にする気かよ…)

少しムッとして女の腕を掴んだ。

そして、立たせる。

「あ、ありがとう…。」

顔を上げて礼を言ってきたが、

俺の目を見ようとはしない。

「はやく、出ていけよ。」

そう言って、向きを変えた時だった。

(?)

足に何かがぶつかった。

「なんだ、これ?」

長い棒のようなものだ。

これは、一体…。

「あっ、それ私のだと思う…。」

「お前の?」

「うん…。」

女に差し出すが、またつかまない。

少し強めに女の手に棒を握らせた。

「こんなもの、何に使うんだ?」

興味本位だった。

自分には馴染みがない物をなにに使うのかと

思って…。

でも、直後俺はそんな素朴な質問をしたことを

後悔することになった。

「それ、杖なの。」

「杖?」

言われてみれば、先端が少し曲がっている。

「私、盲目だから。」

………そういうことか。

だから、病室も間違えて、

直ぐに立つことができなかったのかー。

自分と目が合わず、手を差し出しても

気づかないわけだー。

なのに…。

(悪いことしたな…。)

そう思うと、彼女のことを気にしてしまう。

「病室の番号は…?」

「え?」

「連れて行ってやるよ。」

似つかわしくないことを言っていると自分でも

わかった。

「悪かった。」

冷たく当たったことに対する謝罪なのか、

何に対する謝罪なのか分からなかったが

そんな考えは次の瞬間にはふきとんでた。

彼女が見せた笑顔が…

心を満たした。

「伊勢…」

その笑顔は、忘れていたはずの…

あの人の笑顔にそっくりだった。