「体調はどう?」

『あ……、はい。
 ぼちぼちです』

「それはよかった。
 まだ精密検査が残っているから、しばらくは安静が必要ね」

『そうですか……』

「仕方ないわよ。
 石の上にも三年、っていうしね」


 あれ、それ意味違うかな?
 と後から弘江さんは言って、笑った。




「あぁ、そうだ。
 いいもの持ってきたのよ」



 私の問いかけは軽く流される。



『いいもの?』

「うん、ちょっとまってねぇ」


 白衣のポケットに
 手を突っ込む、弘江さん。

 首の聴診器、胸元のネーム。
 とりあえず資格を持っている医者、
 もしくは看護婦なんだろう。


 けれど私にとっては、
 どれをとっても身に覚えの無いことばかり。



「ジャーン♪」

 にこっと歯が見えるくらい
 大きく笑った弘江さん。

 私はためらわずに
 それを受け取った。

 迷うことが無かったのは、
 体が記憶しているからだろう。


 チョコレート。

 ポケットに入っていたためか
 若干溶けてしまっている
 一口サイズのアーモンドチョコ。

 箱ごとそれを受け取った私は
 すぐに封を開き、
 小さくしてから口に入れる。


 躊躇せず食べたのは
 まずかったかな。

 そう思っていると、
 弘江さんは
 ベッドの脇にある机の上に
 どかんと座り込んだ。



『行儀悪いですよ』

 私が笑って言うと、

「ま、あたしにゃ礼儀なんていらないわな」

 とぶっきらぼうな返事が返ってきた。





 チョコレートのほんのりとした甘みが、
 口に広がった。



「……おいしい?」


 弘江さんはなぜか、
 沈んだ瞳で私に問いかけてきた。



『はい……』


 気を使ったのとお礼のと、
 もちろん純粋においしかった。

 そんな意味もこめて言うと、



「そう……」


 と、より表情を暗くする。