相変わらず皿の上のご飯に視線を落としたままでヤツは言う。

「スピーチは木下にふっておいたぞ。その方が盛り上がるだろ?」

 ばさばさと音が立ちそうな睫毛で何度か瞬きをして、渡瀬さんが微笑んだ。自分の視線攻撃が効かなかったことは、大して残念には思ってないようだった。

「相変わらず自分は動かないのね。でも閉会式はやってもらうわよ」

「・・・渡瀬、宜しく」

「嫌よ。私は横からあなたが嫌そうな顔をして壇上に立つのを見るのが好きなんだから」

 え?私はつい首を捻る。

 何だその理由は。

 まあ、存在が既に女王様な渡瀬さんが、人が、特に男性が嫌がる姿を見るのは既に趣味の域で好きなのかもしれないけど。


 私は奈緒と二人のやりとりをただ眺める。・・・そうか、ダレ男が生徒会長だった時、彼女が副会長だったのかー!濃いな、それは。ほとんど記憶にないんだけど。

 隣で奈緒が囁いた。

「私は渡瀬さんと同じクラスだったんだけど、漆原くらいよね。彼女を普通の人みたいに扱える人間は」

「・・・はあ」

「だって会話になってるもんねえ~」

「・・・そうね」

「ただ者じゃないな、都の夫!」

「・・・はあ」