『沙羅、待っててくれへんか・・・』

『迎えに来るから・・・』

『あほ。みたいやなくてプロポーズや・・・』

『沙羅・・・好きや・・・』

『沙羅・・・沙羅・・・沙羅・・・』





「とう・・・ご・・・」

東吾に呼ばれた気がして目を覚ました。

だけど、私を呼んでいたのは東吾ではなく・・・。

「気が付いた?」

心配そうに覗きこむ、由香、麻衣、そして景の顔があった。
その表情を見て私の心の奥で疼く『悪夢』が『夢』ではなく『現実』だと伝えた。

「ん・・ごめん。今何時?」
「もう9時過ぎだ」

どうやら3時間以上意識を失っていたらしい。
私は寝かされていたソファーから身体を起した。
そして、聞きたくなかったが確認せずにはいられなかった。

「あれから何か分かった?」

私の問いかけに、由香と麻衣が気まずそうに俯いた。
代わりに景が答えた。

「さっきアラスカ沖の海上でバラバラになった状態で機体が見つかった。救助活動が開始されて無事に救助された人も何人かいたが、まだ田宮の名前は出てきていない」
「そっか・・・」
「ただ・・・」

景が躊躇う様に一瞬口を噤んだけど、思い切った様に言葉を続けた。

「機体の損傷具合から見て生存者の数はわずかだそうだ。今は遺体の身元が確認できた方の名前が次々に発表されてる」

遺体・・・・。
その言葉に私はぎゅっと手を握り締めた。

東吾が死ぬはずない。
約束したから。
私を迎えに来るって約束したから。

私はそう自分に言い聞かせていた。



「沙羅、ごめん。私たちそろそろ・・・」

言い辛そうに由香と麻衣がそう切り出した。

「あ・・そうだよね。こんな時間までごめんね。ありがとう」

心配そうに私を見るふたりに、私は微笑んで見せた。
私は大丈夫だ、と伝えたくて。
その笑顔を見てふたりはますます表情を曇らせた。

「沙羅、明日も必ず来るからね!」

ふたりはそう言って帰って行った。



「沙羅、大丈夫かな・・・」
「あの子、私たちにまで気遣って・・・。つらい時には辛いって言わなきゃ・・・つぶれてしまうよ・・・」

ふたりがそんな会話をしているなんて知る由もなかった。