その後しばらくふたりで海をながめていたけど、さすがに身体が冷え切ってきて海を後にした。

電車に乗り込み、隣り合わせに座りながら会話していた。

「ねぇ、この後どうする?みんなのところに戻る?」

私の問いかけに東吾は「う~ん・・・」とうなりながら渋い顔をした。

「ごめん、俺、もう家に帰らなあかんねん・・・。なんか親とか親戚とか、俺の一時帰国のパーティーするとか言うて盛り上がってもうてて・・・」

「そっか・・・。親にとっても久しぶりなんだもんね・・・」

本当はもっと一緒にいたかったけど、そんな我が儘を言えるはずもなく私は自分を納得させていた。
すると、東吾が私の手をきゅっと握ってきた。

「ごめんな、沙羅。ほんまはもっと沙羅と一緒におりたいんやけど・・・・。留学のせいで親にも負担かけてるから、戻ってる時くらい親孝行してやりたいんや」

申し訳なさそうに東吾はそう言った。
私が淋しそうな顔をしたから東吾が気にしたのだろう。
私は笑顔を作って言った。

「うん、そういう風に思える東吾はえらいと思うよ。私の事は気にしないでいいから」

そう答えると、東吾は急に腕をまわして私の肩を引き寄せた。

「ちょっ!東吾!電車の中で!!」

混んでいないとはいえ、周りの人に見られているのが恥ずかしくて、慌てて離れようとする私を東吾は押さえつけた。

「見たい奴には見せつけとこ。俺は今、沙羅とラブラブしたいんや」
「ラブラブって・・・・ふふっ」

いたずらっぽく言った東吾の言葉に思わず噴出してしまい、私はクスクス笑いながら東吾の肩に大人しく凭れた。
東吾は私の肩にまわした手で髪を梳きながら「あ~、ラブラブやぁ」と呟いていた。
そんな東吾の呟きにも私はクスクスと笑っていた。
しばらく私の髪を梳いて遊んでいた東吾が話しかけてきた。

「なぁ、沙羅」
「うん?」
「俺な、明後日には向こうへ戻らなあかんねん」

浮き足立っていた心が一気に沈んでいったのを感じた。
東吾があまり長くここに居られないのは分かっていた。
だけど、そんなに早く戻るとは思っていなかった。

「そっか・・・」

私はそう答えるだけで精一杯だった。
すると東吾は、肩に凭れていた私の頭に自分の頭をコツンと合わせた。

「せやから明日は一日デートしよな」
「デート?」
「せや。そやなぁ・・・遊園地!前に行った遊園地、行こう!」

東吾が明るくそう言った。
落ち込んだ雰囲気を変えようとしている事に気が付いていた。
だから私もわざと明るい声で答えた。

「分かった!東吾、前にお化け屋敷に入れなかった事、未だに根に持ってるんだ!」
「そうや。せやからリベンジしに行こう!」
「仕方ないなぁ、つきあってやるか!」
「ほな決定!」

そう言ってふたりで微笑んだ。


ふたりで過ごせる時間が限られているなら、その時間を思いっきりふたりで楽しもう。
その後に待つ孤独な時間に耐えれる様に。
ふたりでいっぱい笑い合おう。


それはふたりの暗黙の了解だった。