東吾に連れられ電車を降りて私は言った。

「確かに静かよね・・・・・。でもさ・・・・


このくそ寒いのに、わざわざ強風吹き荒れる冬の海に来なくていいんじゃないの~!!」


砂浜に仁王立ちになって、思わず海に向かって叫んでしまった。
だって、本当に寒いったら!
そんな私を見て、東吾は少し後ろで肩を震わせて笑っていた。

「ははっ。沙羅、ホンマおもろいな」

私は東吾を恨めしげに振り返った。

「っていうか、なんで海なのよ。もっと他に行くとこ無かったの?」
「う~ん・・・日本の海が見たなってなぁ。これぞ『日本の冬』って感じの風景やん」

東吾は寒さなど感じないのだろうか。
楽しそうに僅かに白波を立てる海を見ていた。
私はとにかく寒くて、自分を抱きしめるように身を縮めていた。
そんな私にふっと視線を移した東吾が聞いてきた。

「なんや、沙羅。そんな寒いんか?」
「当たり前でしょ!」
「しゃーないな。今日はサービスしたるわ」
「なんのサービス・・・っ!!」

私は最後まで言葉を言えなかった。
急に東吾が私を後ろから抱きしめてきたから。
ビックリして寒さで震えてたはずの身体が、今度は硬直してしまった。
そんな私の耳元で東吾は言った。

「サービスなんて嘘や。ただ俺が沙羅に触れたかっただけや」
「・・・・ばーか」

東吾の言葉で、硬直していた身体をそっと東吾に預けた。
東吾はぎゅっと抱きしめてくれた。

「これでちょっとは寒くないやろ」
「うん・・・」
「俺、沙羅とふたりで話がしたかってん」
「うん・・・」

私は背中から伝わってくる東吾の温もりが嬉しくて、愛おしくて、ただ『うん』としか答えられなかった。
私は東吾の存在を確かめる様に、身体の前でクロスしてる東吾の腕に手を添えた。
すると東吾は、その私の手ごと抱きしめ直すと話し始めた。

「俺な、空港で沙羅の告白聞かへんかった事、向こうへ行って後悔した」
「え・・・・」