「ちょっと待って!手!手が痛い!」

引き摺られるようにカラオケボックスから出て、私は強く握られている手の痛みを訴えた。

「あぁ・・・悪い・・・」

東吾はそう言って手の力を緩めた。
だけど、手を離そうとはしなかった。
頭が混乱したままの私は、口を開くと思っていた事全てが口から出てきた。

「・・・どうしたの?急に・・・。っていうかいつ帰ってきたの?なんで帰ってきてるの?!テニスは??どこかケガでもしたの?!それとも・・・」
「沙羅」

どんどん溢れてくる質問が、東吾の一言でぴたっと止まってしまった。

ずっと会いたいと思っていた人が目の前にいて、しかも手を繋いでくれてて、私の名前を呼んでくれる。
混乱していた頭がその状況を認識すると、私はもう胸がいっぱいになって何も言えなくなっていた。

「俺かって沙羅と話がしたいんや」

そう言うと、東吾は私と手を繋いだまま駅に向かい、電車に乗り込んだ。

「どこへ行くの?」

私がそう質問しても

「静かに話が出来るとこ」

としか東吾は答えなかった。
だけど、私はどこでも良かった。
今、こうして東吾が傍にいてくれる。
この空間があれば場所なんてどこでもいいと思った。


・・・いや・・・・・思っていたのだ・・・・。