「沙羅ちゃ~ん!」

私をこう呼ぶのはあいつしかいない。
呼び方以前に、あいつの声に私の身体はビクンと反応した。
急に騒ぎ始めた心臓の音を悟られたくなくて、いつも以上に冷たい声で振り返った。

「なに?」

私の目の前で田宮ははぁはぁと肩で息をしていた。
試合で疲れているはずなのに、走って私を追いかけてきた事に驚くと共に嬉しさも感じた。
田宮を意識した途端、自分の田宮に対する感情が180℃変わった自分の現金さにため息が出た。

「あれ?なんかえらい不機嫌?」
「・・・・何の用よ」

自分の中の複雑な心境を探られたくなくて田宮の言葉を無視した。
そんな私の態度を気にする事もなく、田宮はにこっと笑って言った。

「一言沙羅ちゃんにお礼言おう思って」
「お礼?」

私には田宮に礼を言われる事をした覚えはない。
思いっきり怪訝な顔をした。

「沙羅ちゃんの応援で俺、自分立て直せた。せやからお礼言いたかってん」

おそらく私がキレて叫んだ事を言ってるのだろう。
間違いなくあの時の私は田宮を応援したつもりは微塵もない。

「応援した記憶ないんだけど?檄を飛ばした事なら覚えてるわ」
「それでも、俺は沙羅ちゃんの言葉で自分を立て直せたから。ホンマありがとう」

そう言って笑った田宮の顔を見て私の胸がぎゅって締め付けられた。
胸のときめきが邪魔をして言葉が出てこなくて、私は焦り気味に答えた。