「ごめんなさい、部長。私、好きな人がいるんです」

私がそう言うと、部長は意外な事を言った。

「それはなんとなく分かっていた。でも、そいつは高宮の傍にはいないんだろ?」
「―――っ!なんで知って・・・」

驚く私を見て部長はふっと笑った。

「お前を見てたら分かるさ。無意識かもしれないが、お前はよく空を切ない眼をして見上げているからな」
「あっ・・・・」

確かに私は空を見上げて東吾に語りかけていた。
それは空港で東吾を見送って以来、私のクセの様になっていた。
俯き言葉を詰まらせていると、部長が私をぎゅっと抱きしめてきた。

「えっ!ちょっ・・・部長?!」
「俺ならそんな悲しい顔をさせたりしない。俺ならずっとお前の傍にいてやる。だから・・・俺じゃだめか?」

抵抗していた私は、部長の力強い腕と切ない声に部長の想いの深さを知り、一度大人しく部長の思いを受け入れてから、そっと部長の胸を押し返しながら言った。

「ごめんなさい、部長」
「高宮・・・・」

少し傷ついた目をした部長を見て、私は胸がきりっと痛んだ。
だけど、部長の思いを受け取るわけにはいかない。
私はゆっくり言葉を繋いだ。

「私は幸せ者です。こうして自分が辛い思いをしていると、手を差し伸べてくれる人がいるんだから。でも・・・あいつには私しかいないんです。私しかあいつの辛い気持ち受け止めてやれる人がいないんです。だから、私は辛くてもそこから逃げたりしたくない」

私がそう言うと、部長はふっと微笑んで私の頭をぐしゃっと撫でた。

「さすが俺が見込んだだけあって簡単には折れてはくれないな」
「・・・なんかそれって私が気の強い女みたいじゃないですか?」
「ん?そうだろ?」

そう言ってぐしゃぐしゃと私の頭を撫でる部長はいつもの笑顔をしていた。

「んもー!やめてください!」

そうして私もいつもの様に部長の手から逃げ回った。



そうだよね、東吾。
お互い『淋しい』って言い合ってたって前には進まないよね。
東吾が立ち止まりたくなったらいつでも言って。
私が背中を押してあげるから。