「なぁ、沙羅。お前はそうやってあいつの事を一番に考えてるけど、沙羅自身の気持ち、もっと素直に吐き出してもいいんじゃないか?」
「私の気持ち?」
「あぁ。お前、田宮が向こうに行ってから一度もあいつの事話さないだろ?淋しいとか、弱音のひとつも吐いてないだろ?」
「だって、私よりきっと東吾の方が辛い思いしてるはずだから・・・」

私の言葉を最後まで聞かずに、景は私を見て言った。

「だからそうやってお前は我慢しすぎなんだよ」

そう言うと、私の右手をぎゅっと握ってまた川に視線を戻した。

「たまには自分の気持ち、吐き出してみろ。そうしないと、おまえ自身がパンクするぞ」

景がそういい終わらないうちに、あたりに花火の轟音が響いた。
私は無意識にその花火を目で追った。
そうして思い出した。
去年は東吾とこの花火を見たんだ、と。
あの時もこうして手を握っててくれた。
でも、今、私の手を握っててくれるのは東吾じゃない。
その事実に私の胸が痛み、つっと頬を涙が伝った。
涙が溢れると、心の中にしまっていた言葉も溢れてきた。

「なんで・・・・なんで東吾がここにいないの?」

花火が発する轟音にかき消され、私の呟きは誰の耳にも届いていないだろう。
そう思うと、私は堰を切った様に次々と言葉を溢れさせた。

「傍にいてよ、東吾。東吾がいなくて・・・淋しいよ。私だって・・・東吾に会いたいよ・・・」

私はたまらず顔を伏せて叫んだ。

「会いたいよ!東吾っ!」

煌びやかに辺りを照らす花火を見る事もせず、私はただ泣き続けた。
その間、景は何も言わずただぎゅっと手を握ってくれていた。