「疲れた~・・・沙羅ちゃ~ん・・・ドリンク・・・」

コートからベンチへと戻ってきた部員達はへろへろっとその場に座り込んだ。

「はいはい!みなさん、タオルで汗、ちゃんと拭いてくださいよ。身体冷えちゃいますから」

そんな部員達に私はテキパキとタオルとドリンクを手渡していく。

「沙羅、俺にも」

1年部員の景もボール拾いを終えてベンチに戻ってきた。
景にもタオルとドリンクを手渡すと、景が言った。

「沙羅、悪いが今日は一緒に帰れない。少し残って練習したいんだ」
「じゃあ、私もつきあうよ。ボール拾い位なら手伝えるし」

部員数の多いテニス部では1年生部員は、まだまだ思うようにボールを使って思いっきり練習できない。
だから景はときどき居残り練習をしていた。
そんな私たちの会話を聞いていた2,3年部員が口々に言った。

「沙羅ちゃんがつきあってくれんなら、俺も居残りしよっかな~」
「お!俺も俺も!」
「先輩達は練習でヘトヘトでそんな余裕ないハズでしょ?!なんなら練習メニュー見直すように監督に言っておきますけど?」
「うわぁ~、これ以上厳しくなるのは勘弁!」
「ならしっかり練習してください。はい、もう休憩終わり!コートに戻った、戻った!」
「え~、マネージャーの鬼~」

ブーブー言いながら部員達はラケット片手にコートに散っていった。
私はそんな部員達を見送りながら思った。

(な~んかマネージャーって言うよりお母さんだな、これじゃ・・・)

心の中で苦笑して、大声で部員達にエールを送った。

「さぁ!みんな!気合入れて練習するよ!!」
「「うぁ~い」」

どうも気合の入ってない声が返ってきて私はがくっとなった。

「こら~!!あんた達やる気あんの?!」

先輩後輩を無視した私の怒鳴り声に部員達が「この部で一番元気なのは間違いなくマネージャーだよな」なんて囁いていたけど、私は無視して部員達の練習を見守った。



ねぇ、東吾。
あなたのおかげでテニスの楽しさを知ったよ。
あなたのおかげで毎日が充実してるよ。
東吾は?
あのふわふわの笑顔のままでいられてる?
真摯なまでのあの目つきでボール追っかけてる?

「頑張れよ、東吾・・・」

みんなには聞こえないように、きっとあいつのいるアメリカに続いてる空に向かってそっと呟いた。