帝星高校に入学した私は男子テニス部のマネージャーになった。
すこしでも東吾を感じたくて、あいつの好きなテニスを知りたくて始めたマネージャーだったけど、
今ではすっかり『テニス』というスポーツにどっぷりハマっていた。

ドリンクを用意してベンチに戻ったところで部長に声を掛けられた。

「高宮」
「なんですか?部長」

部長はコートに視線を向けたまま私に言った。

「もうすぐ休憩に入るから準備しておいて」
「もうバッチリですよ」

自信満々で答えた私に、部長は意地悪な笑みで振り返った。

「随分、慣れたみたいだな。最初はルールもろくに分からなかったくせに」
「そっ・!そうでしたっけ?!」

図星だったけど、とぼけて誤魔化すと、部長は私の頭を力いっぱいぐりぐり撫でながら言った。

「な~に惚けてんだよ!俺が一から教えてやったの忘れたのかよ!」
「すいませんっ!覚えてます!覚えてますからやめてください!」

髪がぐしゃぐしゃになるほど撫でた部長は私の言葉に満足したのか、満面の笑みで私の頭から手を離すと部員達に休憩を告げた。

吉澤部長は、こんな風に無邪気に人と接する事の出来る人だけど、その笑顔が皆を惹きつける。
そしてそんな風に集まった人たちをぐいぐい引っ張っていける行動力と決断力のある頼れる部長だ。