「田宮!」

予想以上に大きな声が出てしまい、私は少し焦った。
それ以上に、呼び止めたものの何を言えばいいのか全然思いつかなかった。

「なに?委員長」

田宮は振り向かず、扉にむいたまま答えた。

行かないで。
好きなの。
田宮が好きなの。

本音がボロボロと零れそうになった。
けど、私は「委員長」なんだ。
田宮にとってはただのクラスメート。
田宮はそれを望んでるんだから。

ぐるぐると思考を巡らせ、やっと一言を搾り出した。

「じゃあね」

そんななんでもない一言しか出てこなかった。
本当に言いたい言葉は奥歯を噛み締めて堪えた。

「あぁ、じゃあな」

そう言って田宮は教室から一歩を踏み出し行ってしまった。
その後姿が滲んで見えたけど、私は拳を握り締めて涙が流れないように耐えた。
それなのに・・・・

「沙羅・・・・」

隣にいた由香が突然私を抱きしめた。
まるで泣いてもいいんだよ、と言う様に。

「何らしくない事してんのよ・・・」

由香の優しさに憎まれ口を叩いても、由香はふっと笑った。

「らしくないってどういう事よ。頭でもはたいて欲しかったの?」
「痛いのはヤだ・・・」
「あんたは子供か」

由香は呆れながらも、私の顔を周りから隠す様に抱きしめてくれた。
麻衣は何も言わずに、ずっと頭を撫でてくれていた。

あぁ・・・こんな事されちゃ泣くしかないじゃん・・・・。

私は由香の肩に顔を埋め泣いた。

好きだよ、田宮。
ずっと好きだよ。

本人には言えなかった言葉を心の中で繰り返し、2人の優しさに見守られながら私は泣き続けた。