「はぁ~・・・・」

田宮がゆっくりとコートに入る後姿を見ながら、私は大きく息を吐いた。
どうやら息をするのを忘れていたようだ。

(なんなのよ・・・あいつ・・・・もしかしてメデューサの生まれ変わりかなんかじゃないの?)

逸らせなかった視線を、田宮に変な言いがかりをつける事で言い訳にした。
しかし、胸の中のざわめきは、すぐに始まった試合のせいで落ち着く事はなかった。

田宮の普段見せない引き締まった表情は、景とやりあった時と同じなのだが明らかに田宮はおかしかった。
テニスの詳しい事は分からないが、なにか田宮が試合に集中出来ていない事は伝わってきた。

(なにやってるのよ!アンタ、強いんでしょう?!)

田宮がミスショットをする度に私はイライラとしていた。
そのイラつきは田宮がサーブをダブルフォルトした時に頂点に達した。

「ちょっとアンタ!やる気あんの?!せっかく見てやってるんだから、もうちょっとマシなプレー見せなさいよ!!」

思わず叫んだ私に、田宮は一瞬大きく目を瞠った。
そして私を見て、ふわっと笑った。
その笑顔は、今まであいつが見せていたどの笑顔より嬉しそうに見えた。
その笑顔を見て、私の胸がまたトクンと音をたてた。

(そんな顔しないでよ・・・・もう誤魔化せないじゃない・・・・)

自分の中で響く胸の音が、気のせいでも勘違いでもない事を私に告げた。



それが私の初恋の始まりだった。