頭の片隅を田宮が支配したまま受験勉強をしていた私は、こんな身の入らない状態で合格できるのか?と不安になったが無事に帝星の特待生制度に合格した。
クラスの皆より一足先に受験勉強から解放された私はみんなから羨ましがられた。

そして間もなく一般入試も終わり、クラスはほっとした雰囲気に包まれた。
しかし一方では卒業へと向かう淋しさも付き纏っていた。

「はぁ、もうすぐ卒業かぁ」

いつもの休み時間。
由香が呟いた。

「3年間なんてあっという間だったね」

麻衣が少し淋しそうに答えた。
卒業すればこうして休み時間に3人で話す事もなくなってしまう。
由香は近くの公立高校に、麻衣は看護科のある高校に、私は帝星に、と3人とも進路はバラバラだ。

「でもさ、家が近いんだから会おうと思えば会えるんだし」

しんみりしそうだった雰囲気を変えようと私が明るくそう言うと、由香が何か言いたげに私をじっと見た。

「なによ・・・由香」
「あんたはさぁ、一番会いたいと思う奴には会えなくなるんだよ?」

由香の一言に胸がズキンと音を立てた。

「・・・わかってる」

俯きそう答えた私に由香が容赦なく言った。

「分かってんなら、どうしてあんたは何もしようとしないの?ホントにこのまま何もせずにあいつとさよならする気?」

「何もしない訳じゃないよ、由香。何も出来ないんだよ・・・・」

そう答えた私に由香は怪訝な顔をした。
私は田宮に思いも寄らない告白をしてしまったあの日の事を話した。

「・・・そうだったんだ・・・」

麻衣が今にも泣きそうな顔でそう呟いた。
由香はなにも言わなかった。

「そういう訳でさ、私の初恋はもう終わってんだよ」

落ち込んだ空気を変えようと、明るい声でそう言ってふたりの頭をぐりぐりと撫でた。
その時、ちょうど授業が始まるチャイムが鳴った。
私はわざとらしくため息をついて言った。

「もうさ、授業なんて意味ない気がして全然やる気しないよ」

苦笑しながら授業の用意をする私に由香がぽつんと言った。

「無理してんじゃないわよ」

それだけ告げて由香は自分の席に着いた。


無理ぐらいさせてよ、由香。
でないと私、見っともなく泣いてしまいそうなんだ。
人前でもどこでも。
田宮に『行かないで』って言って泣いてしまいたくなるんだよ・・・。

心の中で呟いて、私は長いため息を零した。