旅立ち

それからの私の学校生活はかなり気まずいものだった。

同じ教室の中にいる田宮を見ないように意識しながらも、全身の神経が田宮の気配を追っていた。
視線も合わない。
会話も交わさない。
そんな風に毎日を過ごしていると、気が付けば受験はすぐそこまで来ていた。

帝星の特待生制度を狙う私は、一般入試より日程が早かった。
なので誰より早く受験勉強に追い込みをかけているところだった。

授業の休み時間も参考書を開き、必死に問題と格闘している時、田宮がクラスの男子と会話しているのが耳に入ってきた。

「なぁ、田宮。お前、いつアメリカに行くの?」

その質問に私はびくっと反応した。
知りたくない。
田宮がいなくなる日など・・・。
それでも、私の耳は田宮の答えを的確に捉えた。

「ん?あぁ、3月10日」
「10日!?お前、それって合格発表の日じゃん!見送り行けねぇし!!」

驚く男子に田宮はいつものおどけた声で答えた。

「せやからその日にしたんや。見送りなんかされたら、俺、泣いてまうやん」
「なんだよ~、見送りくらいさせろよ。冷たいやつ!」

私はそんな田宮の会話を参考書に視線を落としながら聞いていた。

3月10日

それが田宮が私の前からいなくなる日。
その日まで
あと2ケ月もなかった。