「好きだよ・・・田宮・・・」

決して本人には言えない想いを小さく口にした。
その時、私の背後でがたっと音がして私はびくっと身体を強張らせ恐る恐る振り返った。
そこには・・・・

「あっ・・・田宮・・・」

いるはずのない田宮の姿が確かにそこにあった。

(今の・・・・聞かれてたんじゃ・・・・)

私の頭は一気に混乱して何も言えず、ただじっと田宮を見たまま固まっていた。

「それ・・・俺のなんやけど」

私が抱きしめたままだった学ランを指差しながら田宮が言った。

「あ・・・あぁ!そう!田宮のだったんだ!」

明らかに上ずった声を出しながら私は引き攣る顔を必死で笑顔にして田宮に学ランを渡した。
田宮はそれを何も言わず受け取ると、私に背を向けて教室から出て行こうとした。

(やっぱり聞こえてなかったよね)

少し残念な様な、ほっとした様なため息をそっと零した時、田宮が足を止めた。

「沙羅ちゃん」

田宮はこちらを向かずに私を呼んだ。
私はその声にまたびくっと身体を硬直させた。

(あ・・・今、名前で呼んでくれた・・・)

そんなささいな事に胸をときめかす私に田宮は一言言った。

「・・・ごめん」

それだけを言うと田宮はそのまま教室から出て行った。