赤くなっているだろう顔を隠すように俯いて歩いていると、景が前を向いたまま歩みを止めずに呼びかけた。

「なぁ、沙羅」

私が「ん?」と返事をすると、なんでもない事のようなさりげなさで景は言った。

「俺が昨日言った事は気にしなくていいから」

私は昨日の今日で景がこんな事を言うのが意外だった。
昨日景が私に告げた想いは決して軽々しいものではなかった。
それに景は私に『考えて欲しい』と言ったはずだ。

「気にしなくていいって・・・・どういう事?」

私の問いかけに、景は足をとめて私を見た。

「お前からの答えはもらったから」

景の言葉を理解できなかった。
私は景に何も告げてはいない。
怪訝な顔をしている私に、景は問題が分からない子供に説明するかのように優しく話した。

「今日、お前は意識を失う瞬間誰の事を思った?誰に助けを求めた?」
「え・・・っと・・・それは・・・・」

言葉を濁す私に景はふっと微笑んだ。

「10年以上のつきあいをしていて、切羽詰った状況で顔も思い浮かべられない様じゃ見込みはないだろ?」

景の問いかけに答える事ができなかった。
ただ申し訳なさだけが私を襲った。

「・・・ゴメン・・・景」
「あやまるなよ」

景をそう言って笑い、私の頭を撫でた。

「お前と幼馴染という関係は続いていくんだ。なにもこれで終わりじゃないんだ。俺は次のチャンスを伺う事にするさ」

私の心中を察し「気にするな」というように景が笑顔で話した。
そんな景の優しさが私の心を軽くしてくれた。

(ありがとう、景)

心の中でお礼を言って、私は前を向いて再び歩き始めた。