試合当日。

私は観客席に座りながら、落ち着きなくそわそわしていた。

景に試合を見に来るように誘われた時、深くは考えず返事をした。
が、よく考えれば景の試合を見るという事は、あの綿毛男の試合も見るという事になる。
今回の試合は団体戦だ。
最後に出てくる景の試合を見るためには、その前に試合をするあいつのプレーを見なくてはならない。

別にあの男を見る事でこんなに落ち着かなくなってるわけじゃない。
あいつを教室で見ても何も感じないのだから。

あいつのテニスを見る事が不安だった。

あいつの、あの眼を見るのが怖かったのだ。
日頃の田宮の様子で、『あの時の胸の高鳴りは勘違い』と思ったが、もう一度あの時のような体験をしてしまえば『勘違い』では済まされない気がした。

目の前ではダブルスの試合が行われていた。

試合に集中できない私はキョロキョロと視線を彷徨わせた時、ベンチにいた景と目が合った。
景が合図するように軽く手を上げた。
それに答えるように私も微笑もうとして、その隣の田宮と目が合った。

瞬間に私の胸が跳ねた。

田宮の眼があの時と同じだったのだ。
違うのは、あの時はコート上にいる自分の敵に対してのものだったが、今は明らかに私に対してあの目線を送っていたのである。
心臓がドクドクと音を立て、背中はぞくぞくと粟立った。
奇妙な感覚から逃れたくて、視線を外したいと思っても私の頭はその命令を出さなかった。
ただひたすらに、鋭く見据える田宮から目が離せなくなってしまった。

時間の感覚も分からなくなるくらい、田宮を見ていた。

我に返ったのは周囲の「うわぁ~!」という声援が起こった瞬間だった。
行われていたダブルスの試合が終わった様だ。
景に何やら話しかけられ、田宮は漸く私から目線を逸らせた。