「田宮」

机に浅く腰掛け、友達と楽しそうに話していた田宮が振り返り、私を見た。

「じゃ田宮、俺たち帰るから。テニス、頑張れよ!」
「ありがとう!ほなな~」

田宮はテスト期間中もずっとテニススクールに通っていたらしく、毎日テニスバックを抱えて学校に来ていた。
田宮は話をしていた友達を笑顔で見送り、再び私を見た。

「どしたん?沙羅ちゃん」

教室には私達だけになり、私は余計に緊張して胸がドキドキしていた。
それでも私は冷静を装い、静かに田宮に話した。

「進路調査の紙、あと田宮だけなんだけど」

私の言葉に田宮は「あぁ~」と言いながらくるっと私に背を向けた。

「俺、出す必要ないから」
「はぁ?なんで?」

背中を向けたまま答えた田宮に私は怪訝な声で尋ねた。
しばらくそのまま何も言わなかった田宮は、再び身体を反転させ私と向き合った。
その表情を見た瞬間、私の心臓は一層大きく跳ねた。
田宮の顔が、あの観覧車の中で見た苦しそうな顔をしていたから。