(いやいや・・・ここで帰る訳にはいかない。頑張れ!私!)

自分自身を励ますという、なんとも滑稽な事を自分の中で行い、深呼吸してから足を進めた。




「田宮」

私の呼びかけに田宮は顔を上げ、私を見つけるとふわっと笑った。

「おはようさん・・・もうこんにちはか」

見慣れているはずの田宮の笑顔にさえ、私の心臓はいちいち反応する。
それでも私は必死で冷静を装う。

「どっちでもいいけど、どこ行くの?」

私の問いかけに、田宮はにやっといたずらっ子の様な笑みをした。

「俺についてきい」

そう言って私に切符を渡すと、私の手首を持ってずんずん歩き出した。

「えっ!ちょっ・・・田宮?!・・・手!・・・えぇ?!」

もう冷静な仮面なんてどこかに吹き飛んでプチパニックの状態の私を田宮は「ええからええから」と言いながら、半ば私を引き摺る様に電車に乗り込んだ。