「沙羅ちゃん!」

次の日の休み時間。
田宮がにこにこと機嫌のいい笑顔で私の席の前にしゃがみこんた。

昨日女の子をフッたばかりのこの男がこんなにも上機嫌でいることに私は無関係でありながらもむかついていた。

「何か用?」

私は田宮の顔も見ず、教科書やノートを机にしまいながら冷たい声を返した。

「なんや沙羅ちゃん、今日も機嫌悪そうやなぁ。そんな顔しとったらせっかくの可愛い顔が台無しやで」
「・・・・何の用って聞いたんだけど?」

田宮の誰にでも言う『可愛い』という言葉に思わず赤面してしまいそうになったけどそれも一瞬で、昨日の事を思い出し更に硬い声で同じセリフを言った。
さすがの田宮も私の機嫌の悪さに笑顔を消し、少し俯き加減で口を開いた。

「あぁ・・・・あんな、デート、どこ行くか決まったかなぁ思って」

田宮の言葉に驚き、次の授業の準備をしていた手を止め、正面にいる田宮を初めて見た。

「え?あれってからかってたんじゃなかったの?」
「からかうって・・・なんでそうなんねん・・・・」

田宮はそう言って大きくため息をついた。

「まぁええわ。沙羅ちゃんが考えてなかったんやったら俺が勝手に決めるで。とりあえず、日曜の10時に駅の改札前で待ち合わせしよ」
「え・・・ちょ・・・田宮・・・」

強引に話が進み戸惑う私の声を遮るようにチャイムが鳴った。

「ほな、そういう事で」

そう言って田宮は自分の席へ戻っていった。