東吾と再び想いを通わせた次の日。

私は景に会いに行った。
部屋を訪れた私を景は静かに見ていた。
その視線を感じると胸が痛んだ。

景はいつもこうして私を見てくれていた。
静かに寄り添い、ずっと支えてくれていた。
そんな景に結局私は何も返せなかった。

「景・・・ごめんなさい」

私はそれだけを言って指輪の入った箱を景に渡した。
本当はもっと言わなきゃいけない事があるはずだけど。
申し訳ない気持ちが先立ち謝罪の言葉しか口に出来なかった。

景は何も言わずその箱を受け取り、じぃっとその箱を見つめそしてため息を零した。

「俺は二度もあいつにお前を奪われるんだな」

その言葉に胸をつかれた。
中学のときは、まだ景をそんな風に見ていなかった。
だけど今回は自ら景を選んで、そして裏切った。
涙が零れそうになったけど、これ以上卑怯な人間になりたくなくて唇を噛み締めて堪えた。

「ゴメン・・・」

震える声でもう一度謝罪した。
そんな私の頭を景はくしゃっと撫でた。
懐かしい景のクセに驚き顔をあげると、景は優しく微笑んでいた。

「昨日、田宮が来たよ。来て早々いきなり頭を下げたんだ。『沙羅の事はあきらめてくれ』ってな」
「東吾が?」

昨日、学校を後にして東吾は私を家まで送った後、そのまま家に帰ったのだと思っていた。
だけど・・・
景に会いにきたんだ。
そんな事、一言も言ってなかったのに・・・。

「『今更虫が良すぎるかもしれんけど、やっぱり俺は沙羅が好きや。あきらめられへん。せやから沙羅とは別れてくれ。俺を殴るなり好きにしてええから』って玄関で騒がれて、はっきり言って迷惑だった」