そうしてやってきたのは、見覚えのある、懐かしい場所だった。

「学校だったんだ」
「そや。思い出がいっぱいあるとこやろ?」
「そうだね。いっぱい・・・あるね」

校門をくぐりテニスコートの脇を通り過ぎた。

思えば、私の初恋はこのテニスコートから始まった。

   『絶対俺に惚れるから!』

東吾の宣言通りに私は東吾に恋をした。
東吾のプレーを見て一瞬で心を持っていかれた。
だけど・・・
東吾はもうテニスが出来ない。
あの姿をもう見ることはない。

コートを見ながらあの時の事を思い出していると、後ろから東吾が私を抱きしめた。

「そんな切ない顔してコート見んなや」

私は東吾の腕に手を添えて言った。

「切ないんじゃなくて懐かしんでただけ」
「それやったら、まだまだ懐かしい場所はあるで。行こう」

そうして東吾はテニスコートは全く見ず、私の手をとって歩き始めた。
その時、ふと思った。

(東吾はまだテニスが好きなんだね)

だけど口には出さず、東吾と共に校舎の中に足を踏み入れた。