そうしてしばらく歩いたところで、東吾がいきなり口を開いた。

「ごめん。俺が歩きながら話しよう言うたのに全然しゃべってないな」
「いや、それは全然いいんだけど。私も東吾と話がしたいと思ってたのに全然話せてないし」
「なんで俺らこんな緊張してんねやろな」

東吾がそう言って私の方を向いて笑った。

(あ・・・・東吾の笑顔・・・)

久しぶりに見た東吾の屈託のない笑顔を見た時、なぜか私はほっとして涙が零れた。
それに気付いた東吾は足を止めて慌てていた。

「うわぁっ!なんや?!どないしたんや?沙羅?!」
「ごめ・・自分でもよくわからないけど・・・なんか・・・嬉しくて・・・」

目頭を押えて必死で泣き止もうとしたけど、東吾が『沙羅』って呼ぶからますます涙が溢れてきた。
そんな私に東吾は困ったような口調で言った。

「しばらく見やん間にえらい泣き虫になったんやな、沙羅は。」
「え・・・ちがう・・そんな事なっ」

そこまで言った時には、私は東吾に包まれていた。
ビックリして固まっている私の耳元で東吾が小さな声で言った。

「こないしててもええか?どうなぐさめていいかも分からん。嫌やったら突き飛ばして」
「嫌・・・じゃない」

私は東吾の胸に顔を埋めた。
懐かしい東吾の温もり。
あの頃より逞しくなった東吾の身体。
全身で東吾を感じていた。

私はぎゅっと東吾の身体を抱きしめて言った。

「そういえば、まだ言ってなかったね」
「ん?なにを?」

私は少しだけ身体を離して顔を上げ、東吾の顔を見ながら笑顔で言った。






    「おかえり、東吾」