<最終章> 初恋



『話したい』と言った割には、東吾はなにも言わないまま私の少し前を歩いている。
私は混乱しながら東吾の後姿を見ながら歩いていた。


もう会えないと思っていた人がすぐ目の前にいて。

会いたくて会いたくて仕方がなかった人がすぐそこにいて。

忘れたくても忘れられない人が、今、私と一緒に歩いている。


もう意地なんて張れそうにない。

素直な感情が溢れてくる。



やっぱり私はこのひとが好きだ。

どうしようもないくらい・・・・好き。



東吾の背中を見つめてそんな事を考えていると、急に東吾が振り返った。

「なぁ」
「うわっ!!」

声を掛けられ驚きのあまり軽くのけぞってしまった。
そんな私を見て東吾が苦笑していた。

「そないにびっくりせんでも」
「だっ・・・だって!急に振り返るから!」

胸を押えてふぅっと息を吐き出していると、東吾が言った。

「隣、歩いてくれへんか?」
「えっ?」

顔をあげると、気まずそうに顔を背けている東吾がいた。

「せやから・・・隣を歩いてくれって言うてんの」
「えっ・・・あぁ・・・うん・・・」

とりあえず東吾の横に並んで歩き出した。
だけどやっぱりお互い沈黙したままで、ぎこちない雰囲気が漂っていた。

(なにか・・・話さないと・・・)

その気持ちはあっても、すぐ隣にある東吾の気配を感じるだけで緊張して、胸がいっぱいになってしまって、言葉は出てこなかった。