「私、それ以上は何も言えなかったよ」

由香は話終えると大きく息を吐いた。


由香の話を聞いて思った。
追い詰めてるのは私の方だと。
普段の景なら女の子に自分の弱さなんて曝さない。
でも思わず口にしてしまうほど、景は苦しんでいるんだと感じた。

「私が悪いんだ・・・。なにもかも私が・・・・」

ぎゅっと拳を握り締めて唸るように呟いた。
俯いて由香に縋るように言った。

「由香、私から東吾の記憶、消してくれないかな。頭殴るなり、階段から突き落とすなり好きにしていいからさ。自分
で忘れようとしてもうまくいかないんだ。東吾の事を忘れられれば、私きっと景の事が・・・」
「あんたまだそんな事言ってんの?」

私の言葉を遮り、由香がイラついた様に言った。
顔を上げた私に由香は一気に捲し立てた。

「いつまで自分の気持ち誤魔化してんの。忘れられないなら忘れなきゃいいじゃない。無理に忘れようとするから苦しいんじゃん。そうやって自分の気持ち隠すから周りが傷つくのよ!苦しんでんのはあんただけじゃないんだからね!」

由香の言葉にひっかかった。

「由香・・・周りって誰の事言ってるの?景以外に私、まだ誰か傷付けてるの?」

私の質問に由香は一瞬迷った顔をしたけど、思い切った様に口を開いた。

「言うつもりは無かったけど、いい機会だから言っとくわ。あんた、麻衣がずっと景一君の事好きだった事に気付いてた?」
「えっ?麻衣が?!」

思いもよらなかった事に私は動揺した。
頭の中にはいろんな疑問が浮かんだ。

「ずっとっていつから?麻衣・・・私には全然そんな素振り見せなかった。それにずっと私の事応援してくれて・・・」
「麻衣は中学の頃からずっと好きだったよ。でもその頃から景一君はあんたしか見てなかったからね。『沙羅なら仕方ない。私に勝ち目ないから』って麻衣、笑ってたよ。景一くんも好きだけど、あんたの事も大好きだからね、あの子」

「麻衣・・・・」

  

  『ホントだよ!沙羅って美人で背が高くって、おまけに勉強もできて。それなのに全然気取ったところがなくて、サバサバしてて。男子だけじゃなくて、女子にも人気あるんだから』


麻衣が言ってくれた事を思い出した。
あの頃、麻衣はどんな思いで私を見てたのだろう。
そして自分が辛いからって景の優しさに甘えて、景の気持ちを利用してる私に麻衣は何も言わず、それどころか私の力に
なってくれていた。
知らなかったとはいえ、どれほど麻衣を傷付けただろう。
自分の不甲斐なさに唇を噛み締めた。

「ごめん・・・麻衣・・・」

ここにはいない親友に心から感謝と謝罪の気持ちが湧き上がっていた。
項垂れる私に、由香は口調を緩めて言った。

「悪いと思うんだったら、いい加減意地張るやめて自分の気持ちに素直になんなさい。あんたが幸せになる事を私や麻衣、景一くんだって一番願ってるんだから」

「ありがとう、由香。でも・・・」

親友の優しさに思わず涙ぐみながらも、気がかりなことがひとつあった。

「東吾、もうアメリカに行ったんじゃないかな・・・」

すぐに戻ると東吾は言っていた。
あれから数日経ってる。
もう日本にはいないのでは、と思った。