角度を変え、何度も繰り返し与えられるキスは段々と深くなっていた。
景にキスされながらも、私の脳裏には東吾の姿がちらついていた。
淋しそうに、諦めたように笑う東吾が瞼の裏に張り付いて離れない。
心が軋むのを感じながらも、私はそれを振り払う様に景の背中に腕を回した。

ずっと私を支えてくれた景の想いを受け入れなくては。
私は景と歩むことを決めたんだから。

ぎしぎしと痛む心に言い聞かせ、そっとソファに押し倒されても私は抵抗しなかった。
深いキスを私に施しながら、景が私のブラウスのボタンに手をかけた。
ボタンを外され、素肌に景の手が触れた瞬間、東吾の声が脳裏を駆け抜けた。


  『待っててくれへんか、沙羅』


「・・とう・・ご・・・」

無意識に呟くと涙が溢れてきた。
心が悲鳴をあげている。
もう限界だった。


私の異変に気付いた景が身体を離して私を見下ろしていた。
情けなくて、申し訳なくて私は自分の顔を覆った。
それでも涙は止まるどころか次々溢れてくる。

「・・ごめ・・・景・・・ごめん・・・」

謝るしか出来ない私は、ただ「ごめん」を繰り返した。
景は私の腕を掴むと、そっと顔から引き離し私の顔をじぃっと見て言った。

「そんなに俺に抱かれるのが嫌か?」
「違う!そんなんじゃない」

そう答えた私を景は拒絶するように顔を背けてソファに座り直した。
私も身体を起して身なりを整えながら景に言った。

「景が嫌とかそんなんじゃない。ただ・・・予想外の事が起こって混乱してるだけだから・・・」
「じゃあ・・・・お前は・・・・」
「えっ?景、なに?」

景がぼそっと言ったけど上手く聞き取れなくて、景の顔を覗きこむようにして聞き返した。
すると景は私に強い視線を向けながら言った。

「お前は混乱しただけでそんなに泣くのか?落ち着けば素直に俺のものになるのかよ!」

景らしくない怒気を孕んだ声に私は身体をびくっと強張らせた。
景はふっと息を吐いて視線を逸らせた。

「怒鳴って悪かった。だけど、お前は本当にケジメがつけられるのか?あいつが生きてる事がわかって、お前の目の前に現れて、それでもお前はいつかあいつを忘れて俺だけを見る事ができるのか?」

「・・・景・・・」