何を食べるか相談した結果、景の部屋で鍋をする事になった。

買い物を済ませて景の部屋に入ると、景は私に買い物袋を渡した。
私はそれを眉を顰めて受け取った。
仕方なく野菜を切りながら、テーブルにお箸やコップを並べている景に話しかけた。

「ねぇ・・・私お客さんじゃないの?普通お客さんに夕ご飯の支度させないよね?」
「お前は客じゃない。俺の彼女だろ?」
「・・・・そう・・・だけど・・・・」


  『彼女』

面と向かって言われると少し戸惑ってしまった。
私は左の薬指に嵌められた指輪に視線を落とした。
これを受け取ったあの日から私と景はただの幼馴染みじゃなくなった。
その事に後悔はないけれど、長い間幼馴染みだったせいか『彼女』と呼ばれる事に抵抗を感じた。

「沙羅、お前鍋に入れる白菜を千切りにしてどうするんだ?」
「へっ?・・・あっ!」

私はぼーっとしながら包丁を動かしていたせいで、白菜が見事に細切れになっていた。

「ありゃ・・見事に千切りになっちゃった。ははっ・・・まぁ食べやすくていいかな?」

私は愛想笑いしながら誤魔化そうとしたけど、景はふぅっとため息をついて私から包丁を奪った。

「後は俺がやるから座ってろ」
「ごめん!ちゃんとやるから!」

さっきは文句言ったけど、人に働かせておいて自分だけのんびりなんて出来なかった。
景から再び包丁を取り返そうとしたけど、景は私の手を掴んでそれを阻止した。

「いいから。ぼーっとして指でも切ったら大変だからな」
「スイマセン・・・でもあれよね!怪我しても景が一緒ならすぐに手当てしてくれるから安心よね」
「お前の手当てはしたくない」

景が包丁を器用に動かしながらそう言った。
私はその言葉に頬を膨らませた。

「なんでよ!ケチ!」
「そう言う意味じゃない」

景は落としていた視線を私に向けて言った。

「お前には怪我なんてして欲しくない。沙羅に痛い思いはさせたくない、そう言う意味だ」
「え・・・・あぁ・・・そう・・・」

急にこんな事言われて顔が赤くなった。

(景ってしれっと恥ずかしいこと言うなぁ・・・・)

やっぱり慣れない恋人同士の甘い会話に、私はひとりうろたえていた。