思い出をたどりながら、景とゆっくり砂浜を歩いていた。
すると景がぽつんと言った。

「沙羅、俺のせいか?」
「ん?なにが?」
「俺の為に今日、あいつに別れを告げたのか?」

景は私が無理をしているんじゃないかと心配しているようだった。
私はふっと微笑んで答えた。

「景の為じゃない。私が前に進む為だから。景はそのきっかけをくれただけ」

そう答えると景もほっとした様に微笑んだ。
そうしてお互い視線を前に戻した時、遥か向こうに人影が見えた。

「こんな寒い日にわざわざ海を見に来る物好きが他にもいるんだね」
「本当にな。しかもひとりで」
「まさか・・・入水自殺とかじゃないよね・・・」
「沙羅じゃあるまいし」
「わっ・・・私は自殺したかった訳じゃないわよ!」
「だけどあのまま放って置いたら同じ事だっただろう?」
「むぅ・・・・・」
「そこは感謝の言葉を言うべきところだと思うが?」
「その節はありがとうございました、藤堂さん」
「礼よりキスがいい」
「なっ!あんたが礼を言えって言ったんでしょ?!」
「気持ちの篭っていない言葉ならいらない。それなら熱烈なキスの方がいい」
「あんた・・・そういうキャラだった?」
「なんだ?知らなかったのか?」

そんな風に景とじゃれ合いながらどんどんその人影に近づいていった。
私たちの声に気付いたのか、その人影がふっとこっちを見た。

その瞬間・・・・

私は心臓が壊れるんじゃないかと思うほどドクンと音を立てた。


「えっ・・・・・・」

無意識に足が止まっていた。
手を握り締めても震えが止まらなくなっていた。

「どうした?沙羅?」

景が不審に思って声を掛けてくれたけど、私は喉の奥が張り付いてしまった様に声が出せなくなっていた。
そんな私の視線の先を景が追い、その人物を見た。
その瞬間、景の表情も凍りついた。


「うそだろ・・・・」


景の口からそんな言葉が漏れた。

そしてその人物がゆっくりと口を開いた。



「お前らに会うとは思わんかったわ」



懐かしい大阪弁を話すその人。


田宮東吾がそこにいた。