景が連れてきてくれた店は雰囲気のいいイタリアンのお店だった。
どこかの居酒屋なんかを想像していた私は少々戸惑ってしまった。

「景、居酒屋とかファミレスとか、そんなとこでいいよ」
「ゆっくり話がしたいからこういう店にしたんだけど、イヤか?」
「イヤじゃないけど・・・。なんかデートみたいじゃない」
「それじゃダメなのか?」
「え?」

ただ景と食事するとしか考えていなかった私は、景の言葉に戸惑った。
そんな私を景はエスコートしながらお店の中に入ってしまった。


店内は照明が落とされ、テーブルの上のキャンドルが僅かに相手の表情を見せるくらいだった。
周りをみればカップルばかりだった。
彼女がいなくても、もてる景だから同じ大学の女の子とこういうお店に来ていてもおかしくないな、と思った。

「景ってこういうお店、よく来るの?」
「まさか。こんな店に男同士で入れないだろ」
「だから女の子と・・・・」
「食事に誘うのは沙羅だけだ」

きっぱりとそう言った景の表情はよく分からなかったけど、少し怒ったように言った景の言葉に胸がドキンって高鳴った。

(お店の雰囲気が良すぎるせいかな・・・)

幼馴染みにときめいてしまった自分にそう言い訳していた。

雰囲気だけではなく料理も本当においしくて、最初に感じた気まずいときめきも全く忘れて私は食事をしていた。
デザートを満喫していると景が言った。

「沙羅に渡したいものがあるんだけど、帰りに俺の部屋に寄ってくれないか?」

景は大学進学と同時に一人暮らしを始めていた。
そういえば、景の部屋に行った事が無かった事を思いつき、気軽に返事をしていた。

「いいよ。でも持てないほどの大きいものとか重いものとか勘弁してよ」

私がそう答えると景はふっと笑った。

「大きくもないし重くもない。手の中に楽に収まるよ」
「なんだろ?」
「それは見てのお楽しみ」

なんだかなぞなぞを出された様にわくわくしていた。