冬の海は強い風が吹いていた。

私は波打ち際でしゃがみこみ、用意していた花束をそっと置いた。
2度、3度と波が打ち寄せ、やがて花束を海へと攫っていった。
その様子を私はじっと見つめていた。

「バイバイ、東吾」

私は海に消える花束を見つめ呟いた。
その時、背後から私の肩にそっと手が置かれた。

「冷えるよ」

促され立ち上がり、その手の人物を振り返った。

「ありがとう、景」

微笑んでそう言った私に、景は手を差し伸べた。

「行こう」
「うん」

差し出されたその手を取って歩き始め、もう一度だけ、と海を振り返った。

(バイバイ、東吾。さよなら、私の初恋)

心の中だけで呟き、私は前を向いた。



花束と私の想いと遠い日の約束。
全てを海に流して
私はやっと初恋を終わらせ
隣りに立つ人の手を握り
前へと歩き始めた。


出会いから8年が過ぎた冬の日の出来事。