ツアーに行ってなにかあったの!?
なんでキスなんかしたの!?
あたしのこと、弄んでるの…?
「ユウのメシ食えると思ったのになぁ~」
「リンリンとデートで忙しいから仕方ないじゃん」
「それはどうかね?」
「どんな意味?」
「わざと出てったのかもな」
どうして?
も、もしかしてあたしと澪王をふたりにするため…!?
「気がきくお兄さま~」
「俺は困るね」
「何で?」
「ふたりきり、だから」
頭、爆発しそう。
澪王が澪王じゃないみたい。
あたしをどうしたいの?
「ごちそうさん。風呂入ってくる」
「ちょっと待ってっ!!」
「ん?」
「澪王にとって…あたしってなに…?」
「悪魔みたいな女」
「は…?」
「がははっ!!」
そう言って澪王はお風呂に入りに行った。
悪魔って…。
悪口じゃん!!
やっぱり弄んでるんだ。
澪王があたしを好きになるなんて、ありえないもんね!!
ガキガキ言われて、迫っても拒否って。
急にキスとかおかしいもん!!
ムスッとしながらさっき買ってきた桃ゼリーをひとりで食べる。
バカ澪王、バカ澪王、バカ澪王~!!
そんな澪王がお風呂から出て来て、冷蔵庫を開けてビールを取り出した。
「服着ろよ、おっさん」
「言うね…」
「太ったんじゃない?」
「うっせ!!筋トレ付き合え」
「ヤダもん」
「なに拗ねてんの?お子ちゃまシュリちゃん」
ムカつく!!
あたしが大人の女だったら、澪王なんかメロメロにしちゃうんだから!!
「あぁ~…うめぇ!!風呂上がりのビールは最高っスね~」
「デブ」
「そこまで太ってねぇから!!」
「ハゲ」
「ハゲてねぇし」
「おっさん」
「うるさいよ、君」
またチュッて…。
なんなの、これ…。
あたしは夢でも見てるの?
「そうやって黙ってりゃあカワイイのに」
「うん…」
「甘っ!!ピーチ味」
意味がわからない…。
熱が出そう。
澪王に翻弄されすぎてて、自分のペースを乱される。
「なんで…キス…するの?」
「してぇから」
「なんでしたいの?」
「お前がカワイイから」
「好き…なの?」
「さぁな」
ふざけるなっ!!
こっちはこんなに頭の中ぐちゃぐちゃなのに!!
「いてぇっ!!」
「バカ澪王!!お前なんか地獄に落ちちまえ!!」
お腹にグーパンチ。
気分が晴れない!!
「殴ることねぇだろ!!」
「いっぱい脂肪ついてっから痛くねぇだろ」
「お前口悪すぎ!!」
「うっせぇ、ブタ」
「はぁ!?さすがにそれはねぇよな?」
「怒りたいのはこっちだ!!」
「困った困った、お子ちゃまはすぐキレまちゅね~」
「大人ぶってんじゃねぇよ」
「シュリより大人です~」
「その人をバカにしたような態度がムカつくんだよ!!」
「うるせぇな…。黙らされてぇの?あっ、キスしたいわけ?」
「誰がするかっ!!」
「はいはい、小一時間黙っとけ」
本日3回目のキスで、あたしは何も言えなくなった。
好きすぎて…もっとしてたい。
澪王が好きだよ…。
【澪王】
今日でツアーが終わった。
短期間で全国を駆けめぐる旅が、今年もやっと終わった!!
最終日は地元ってのが毎回の定番で。
たまに家に帰ってはいたけど、今日からしばらくは毎日帰れる。
「打ち上げ~」
ってことで、とりあえず打ち上げ。
基本的にバカの集まりの俺たちの打ち上げは、ひたすらバカだと思う。
明日からしばらく休みだし!!
吐くまで飲んでも許される日!!
「お前、食い過ぎだろ…」
「性欲溜まってっから食欲で満たしてんだよ」
「現地の女と遊ぶんじゃなかったわけ?」
「気分乗んなかった」
「原因はシュリちゃんね」
「どうでしょ~ね~」
「認めりゃ楽になんじゃねぇの?」
なるだろうな。
あの、寝ぼけてキスした日から、シュリに頭ん中独占されてて。
シュリを見てると、思春期のガキみたいになる。
キスしたい、キスしたい、むしろヤりたい?
なんて思う俺、きっとシュリに落ちてしまった。
めちゃくちゃ口が悪くて、性格も自己中で。
だけど無邪気なシュリがカワイくて仕方なくなってて。
久しぶりに帰れば飛びついてくるし、いっぱい笑うようになったし。
だけど、好きだと認めたら、シュリをすぐに押し倒しそうなので認めてやらない。
アレは本当は繊細な生き物だ。
傷つき安くて、すぐに壊れそう。
現に、会った時には声が出なかった。
口は悪いけど、中身はすげー弱いんだと思う。
「澪王も犯罪者の仲間入りか~」
「やっぱ犯罪だよな…。お付き合いなんかしちゃって、週刊誌にデッカく載っちゃう?」
「見出しは『ロリコンレオ様』に決まり」
「それはムリだ!!」
「そん時は結婚でもしちゃえよ。お前の株、少しは上がるかもな」
「結婚したら下がるだろ」
「お前の場合は上がるよ。ひとりの女に絞れたのか~ってな」
そんなに節操ねぇのか、俺って…。
そんなことしてんの、俺だけじゃねぇじゃん…。
駿太郎も裏で派手に遊んでるし、リキはキャバクラにハマってるし。
リーダーのアツシだって、彼女いるくせに合コン行きまくってんじゃん。
「酒っ!!今日は飲む!!」
「レオさぁん、お疲れさまでしたぁ~」
「一緒に飲む~?」
「飲むぅ~!!」
スタッフと浴びるほど飲んで、騒ぎまくって。
日常を忘れて酔っぱらった。
目が覚めた時、隣には見知らぬ裸の女。
「頭いてぇ…」
「レオさん…」
「えっと、誰…?」
「昨日、夜の街で声かけたじゃないですか」
「ナンパか…。ヤった?」
「はい!!」
「悪い、覚えてねぇ」
「ひどいです…」
記憶がなくてもちゃんと避妊してる自分を褒めてやりたい!!
気持ちわりぃ…。
「ここどこ?なんかいい部屋じゃね…?」
「スイートがいいってレオさんが言ったから」
「げっ…」
マジかよ…。
めちゃくちゃ無駄遣い…。
「このことは忘れて」
「イヤです!!」
「どっかの雑誌に売っちゃう?金になるけど」
「そんなことしないです…」
「じゃ、思い出ってことで」
アホだな、俺…。
自分のバカさに呆れながら朝帰りした。
シュリが寝てることに一安心しながら浴びたシャワー。
飲み過ぎたらダメだな。
記憶がないって、ヤバイだろ…。
女の匂いを洗い流した後、トイレで盛大に吐いて。
「澪王さん!?大丈夫!?」
「ユウ、水…」
「二日酔い!?それとも具合悪いの…?」
「酒臭くね?俺…」
「はいはい、リビングに用意しとくね」
嫁~!!
ユウリ、大好きだ…。
フラフラでリビングに行くと、氷がたっぷりの冷たい水と二日酔いの薬。
ユウリってめちゃくちゃカワイイ…。
ガリガリ氷をかじってたら、シュリが目覚めてきた。
「…………」
ソファーに座る俺に無言で近づき、そのままなぜか膝枕。
猫…。
カワイすぎる…。
「おかえりぃ…」
「ただいま…」
「酒臭っ…」
「だったら離れろ」
「にゃだ」
無条件で懐かれてる気分。
そして、軽い罪悪感。
付き合ってるわけでもないのに、浮気した気分。
バレなきゃいいってもんでもねぇんだな…。
スースーと寝息をたて初め、シュリが寝たことに気がついた。
「カワイイと思う?」
「は!?」
「カワイイでしょ、シュリ」
「まぁ、顔は…」
「モテるんだよ。よく告られてる」
「こんな性悪好きになるなんて、物好きもいたもんだな」
「黙ってればカワイイからね」
黙ってればな。
猫を可愛がるように、頭を撫でたらすり寄ってきて。
ユウリがいなかったらキスしてる。
コイツの素直なとこはマジでカワイイ…。
「みそ汁作るね。二日酔いの日はみそ汁飲みたいんでしょ?」
「おぉ」
「今日は僕、外に出た方がいいかな?」
「そういう気の回し方すんじゃねぇよ」
「違うよ、シュリのため」
絆が深い双子なんだろうか…。
ユウリは絶対策士。
本能より頭で考えて行動するタイプ…。
「澪王さんとシュリがうまくいけばいいなぁって思ってるしね」
できた兄ちゃんだな…。
妹の幸せを考えてるユウリには悪いけど、俺はシュリと進展することは今のところ考えてない。
シュリに対して責任なんて取れねぇよ。
「シュリとどうこうなるつもりはねぇから」
「ふぅん」
「何が言いてぇ?」
「シュリって僕には大事な妹なんだよね。あんまり傷つけたら、僕だって悲しくなるよ」
それが俺には脅しに聞こえて。
ユウリって怖いと、初めて感じた瞬間だった。
「恋愛っつーのは他人に言われてするもんじゃねぇだろ」
「だから?」
「だから…俺に期待すんじゃねぇ」
「でもさ、自分に正直に生きた方が楽しいよね」
グサッときた。
ユウリの言葉が正論で。
わかってるけど、散々はぐらかしてたことを見透かされた気分。
わかってる。
わかってるけど、認めたくないだけ。
いや、認めちゃいけないんだ。
認めたら今の生活が変わる。
認めてしまえば、俺はタガが外れてしまう。
惚れてない。
シュリなんか、好きじゃない。