それは、泣いてるあたしと、優しい顔で涙をぬぐうユウリ。



このショット…最後のじゃん…。



後ろにはあたし達がバラの上で手を繋いで笑い合ってるヤツ。



恥ずかしい…。



「名前出てんでしょ?あたしだけど、それがなに?」

「なら会ったの?」

「は?」

「ラッシュに会ったのかって聞いてんの!!」



悔しそうな顔…。



相当澪王たちのファンらしいね。



一緒に住んでるもんね~。



ってのは内緒。



「教えてやんね」

「カッコヨかった…?」

「なんなの?散々イジメてたくせに、今更話しかけんなよ、ブス」

「はぁ!?ちょっと有名になったからって調子に乗ってんじゃねぇよ!!」



乗ってねぇよ。



お前が話しかけて来たくせに。



マジ、うっとうしい。



またイジメられると思った。



けど、それ以上なにもなくて。



ユウリは昔からモテモテ王子様だから、特に状況は変わらず。



あたしは久しぶりに学校に来たのにイジメられなかった。



そして待ちに待った帰りの時間。



ユウリと学校を出て、校門を目指すと、黒山の人だかり…。



その先には澪王の車がドカンと止まってて、本人は車の中。



騒がれることに慣れているのか、周りの状況は無視でスマホでゲームをやってる。



なんとか近づいて、ユウリがコンコンッと窓を叩くと、ゲームをやめてロックをはずしてくれた。



ユウリが助手席、あたしが後部座席。



「澪王さん、すっごい人気だね」

「まぁな」

「有名人になった気分」

「ははっ!!」



笑いながら車を発進。



今からどこ行くんだっけ…。



無言で車に乗ってたら、ビルの地下駐車場に入った。



あっ、澪王の事務所か…。



澪王がガードマンに軽く挨拶をして中へ。



『社長室』というプレートがある部屋へ躊躇なく入った澪王。



コレが社長さん…。



「お疲れ様」

「お疲れっス」

「生双子!!初めまして、あたしがこの事務所の社長よ」



若いしキレイな人だ…。



オジサンを想像してたのに。



「今回のふたりのギャラね。はい」

「ありがとうございます」



分厚いんだけど、いくら入ってるの…?



中を見たら失礼だよね?



「ところでユウリくん」

「はい?」

「うちの事務所に入る気はある?」

「僕は雇わない方がいいですよ。人に言えないようなこと、たくさんしてきたんで」

「それは澪王から聞いてるわ。それでも契約したいって言ったら?」

「考えさせてください」



ユウリのニッコリスマイル。



次はあたしが同じことを聞かれた。



「あたしに合ってない。ワガママだから」

「澪王たちラッシュとの専属ならふたりともやるのかしら?」

「知らない。気分次第?」

「あはははっ!!気に入ったわ、シュリ。また来てちょうだい」



そう言われてお金だけもらい、澪王に焼き肉を奢った。



お金持ちになった気分…。



喜んでたくさん食べた澪王を見て、やっぱり好きだと思った。



もっと澪王に近づくために、たくさん頑張ろう…。



【澪王】



家に帰れない。



ツアーになれば、家に帰る時間よりも、どこかにいる時間の方が長い。



ライブは俺が相当口を出すため、夜中までなんて当たり前。



地方に来たら泊まりだし。



まぁ、今は家にいたくないからいいけど。



シュリと顔を合わせたくねぇから。



細かいことを決めたりしてる時間が、俺には楽。



シュリのことを考えなくていい。



「いつからそんなにマジメになったんスかね~」

「うっせぇ。家に帰るとちっこいガキに迫られんだよ」

「迫られるって!!」

「そのうち裸でベッドに入って来そう…」

「シュリちゃんか?確かにお前にしか興味なさそうだよな」

「俺はどうすりゃいいんだ…」

「別にいいじゃん。あの顔で迫られたらたまらん」

「高校生だっつーの」



犯罪だろ。



あり得ねぇ…。



「ちなみに俺、ユウリでもイケる」

「アホか。そんなこと本人に言ったら『いくらで買います?』とか言いそうだ…」

「ぎゃはははっ!!」



帰りたくねぇ…。



だけど俺は家に帰らなきゃならなくて。



仕方なく帰った家のリビングにはソファーに丸まって眠るシュリ。



放置していいよな?



でもまた熱出して病院なんてことになったら…。



「ハァ…」



ため息をついてからシュリを部屋まで運んだ。



軽すぎるシュリをベッドにおろして、布団をかける。



月明かりに照らされた寝顔は、作り物のようにキレイ。



天使がいるとしたら、たぶんこんな顔。



開けっ放しになっていたカーテンを閉めて、部屋を出る。



顔が卑怯。



あの顔はマジでナイ。



年がもう少し近くて、性格がよかったら、たぶん好きになってる。



そう考えてる自分、ヤバイと思う。



確実にシュリになにかしら感じてる気がするから。



だけどシュリは16歳、高校2年生。



俺から見ればガキ。



シャワーを浴びながら、シュリのことを頭から追い出した。



バカか、俺は。



今はライブに集中。



寝て、早く目覚めて、シュリたちと顔も合わせないまま家を出る。



仕事しまくって、充実した1日を過ごす。



社長からは双子を事務所に入れたいと、うるさいくらい言われてる。



俺はその話を双子にしていないけど。



アイツらにはアイツらのやりたいことをさせたい。



自分からやりたいと言うなら、俺も社長に相談するし。



今はユウリも恋愛に夢中みたいだから。



アイツらがどんな道に進むのかはわからないけど、もうしばらくは穏やかな時間を作ってやりたいと思ってる。



シュリはやんねぇだろうし。



あの性格じゃ…まずムリだろ。



「お疲れ~」

「お疲れさまでした。明日も迎えに来ますので」

「あいよ、頼んだぞ~」



深夜、マネージャーに送られての帰宅。



ふたりとも寝るのが比較的早いので、もう寝てると思ってリビングへ。



「シュリっ…」

「バカ」

「あ!?何様!?」

「シュリ様だ!!」



なんかブチギレてんだけど…。



どうすんの、コレ。



怒りの理由もわからん。



こっちは疲れてんのに。



「何で起きてんだよ…」

「澪王が帰ってこないから!!」

「仕事なんだから仕方ねぇだろ」

「メールも電話もしてくれない!!ユウリにはするのに!!」



それで拗ねたわけね…。



カワイイ顔してめちゃくちゃキレてるし…。



マジでわかりにくい…。



「俺、早く寝てぇんだけど」

「一緒に寝て」

「はぁ!?」

「あたし、可哀想だから一緒に寝るくらいいいじゃん」



全部シュリ中心の考え!!



なんかすげーよ、お前…。



未だに掴めない…。



「俺の疲労とか、俺の都合は?」

「無視」

「言い切ったな!!ふざけんな!!俺だって疲れてんだよ!!」

「あたしはずっと待ってたもん!!」

「なんなんだよ、彼女でもねぇのに」

「だったら彼女にすればいいじゃん…」

「ナイナイ。バカ言ってんじゃねぇよ。誰がお前みたいなワガママなガキなんか彼女にすっかよ」



そう言ったら効果音が出そうな程落ち込んだ。



めんどくせぇ…。



何で俺が機嫌取りなんかしなきゃならない…。



「シャワー浴びてくっから…。先に寝とけ…」

「一緒!?」

「お前端っこ!!わかったか!!」

「うん!!」



一気に笑顔になったシュリは、パタパタスリッパを鳴らして俺の部屋へ。



笑ってりゃカワイイのに。



どんな育ち方すりゃああんなにワガママになるんだよ…。



俺だってワガママだけど、アイツ程イカレてねぇよ…。



ため息を着いてからシャワーを浴びて、シュリが眠るベッドに潜り込む。



「澪王ポカポカ~」

「触んな!!」

「なんで?あたしに欲情するから?」

「しねぇよ…」

「ねぇねぇ、噛みついていい?」

「は…?」

「ガブーってやりたい」

「うっせぇ。さっさと寝ねぇと追い出すからな」

「ケチ、ハゲ、ボケ」



そのままシカトしてたらいつの間にか夢の中。



シュリが隣に寝てるからなのか、すげー美人な女との濃厚でイヤらしい夢を見た。



柔らかい…。



「澪王っ…苦しいっ」

「っせぇ…」

「ん…」



隣の美人を抱きしめて目覚めた朝。



頭がハッキリした瞬間、シュリをすっぽり腕の中に押し込めていたことに気がつき、慌てて体を離した。



まだ眠ってるシュリにホッとして、ケータイを持ってキッチン。



ユウリが起きてメシを作ってる。



「おはよう、澪王さん」

「おぅ…」

「お疲れだね。また二日酔い?お水飲む?」

「お前の妹に振り回されすぎて疲れた…」

「シュリ?また澪王さんとこで寝たの?」

「どうすりゃいいんだ…」

「本能に従っちゃえば?あははっ」



コイツに相談したのが間違い。



ユウリはそういうヤツだった…。



「僕ね、この前のコと付き合うことになったよ」

「マジで?よかったじゃん」

「うん、これから清く正しい純愛を育む」



純愛って。



どの口が言ってんだ。



「すぐに手ぇ出したりすんなよ?」

「僕、セックスしたいわけじゃないしね。アレ、飽きたし」



そうスか…。