ご飯を食べたら仕事の準備。



澪王は今から仕事らしい。



「早いね」

「まぁ、モネのこととかあるし。忙しいんだ、何気に」

「そうなの?澪王ってあんまり仕事の話しないよね」

「そうか?あっ、ちなみに来月の初めは日本にいねぇ」

「は…?」

「海外のライブに呼ばれたからちょっと行ってくる」

「海外なんて今まで行ったことなくない?」

「前はあったんだけどな。最近日本での活動しかしてなかったから」



知らなかった。



ネットで調べたら、ラッシュは海外でも評価されてるらしくて。



実は超大物…。



なんだか納得いかない!!



全く追い付けないじゃん!!



仕事に向かう車の中で、レイさんにラッシュのことを聞いてみた。



「知らなかったのか」

「知らないよ。だって、そんな感じしないじゃん。みんな普通っていうか…」

「それがいいのかもな。しかも、海外版の歌は日本語じゃなく、ほとんど英語だし。澪王さんの歌唱力は世界で通用する」



なんかムカツク。



完璧過ぎて腹が立つ。



あたしなんかと付き合ってるのって奇跡なんじゃないの?



「ラッシュって下積み時代とかないわけ?」

「ないな。高校生バンドで、そこそこ人気あったし。社長が直々にスカウトした唯一のバンドだ」

「みんな仲良しだし、実力もあるとか、周りに恵まれすぎ」

「澪王さんの高校知らないのか?金持ちしか通えないとこだぞ。あんな育ちが悪そうに見えて、ラッシュは全員お坊ちゃんだ。まぁ、澪王さんの実家はその中でもランクが違うけどな」



だからみんな音楽なんて昔からやってたんだって。



マジで恵まれすぎ。



「いいよね、生まれた時から人生決まってるヤツは」

「そうか?リキさんなんかは親の意思に背いて絶縁状態だし、アツシさんの親はまだ音楽で生きていくことを認めてないしな」

「そんな感じしないけど…」

「彼らも彼らで、いろんなものを背負ってるんだ」



知らなかった。



みんな笑ってて楽しそうだとしか思わなかったから。



順風満帆ってわけでもないのか…。



あたしは反対する人もいないし、ユウリという力強い味方がいる。



その点では幸せかもしれない。



「レイさんも決まった将来があったんだね」

「社長は独身だし、俺以外に後継ぎもいないからな」

「レイさんのパパは?」

「有名な俳優だ。仕事で何度か会ったことがある」

「その程度なの?」

「まぁな。俺を生んだのは未婚だったし、今更父親なんか求めちゃいない」

「あたしと同じだね」

「そうかもな」



その日の仕事は楽しくできた。



レイさんとの関係も最近はかなり良好だと思う。



「シュリ、明日は忙がしいからな。ちゃんと寝て、体力蓄えとけ」

「はぁい」

「ユウリにもよろしくな」

「気をつけて帰れよ、レイさん」

「あぁ」



家には先に帰ってたユウリ。



久しぶりにリンリンがいる!!



「シュリ先輩、お久しぶりです」

「なんでいんの!?お泊まりする!?」

「シュリ先輩に会いたくて?」

「大好き、リンリン!!」



よし、仕事頑張ってでっかい女になるぞ!!



【澪王】



久しぶりの海外は熱烈な歓迎を受けた。



スゲー待遇。



日本を出る前の双子の疲れ具合も気になるけど、俺たちが帰国する数日前にアイツらは旅立つ。



「観光行きてぇな…」

「夜は治安わりぃから出んなって言われてんだろ」

「わかってます~!!」

「眠いから寝る」

「マジで?もったいねぇ。女の子呼ぼうよ、澪王」

「ひとりで呼べ、リキ」

「クソガキの彼女いるヤツと嫁持ちのリーダーと片想いのドSはいいよな、充実してて」



リキがヒマを持て余してるので、みんなで飲みに出た。



もちろん、ボディーガード付きで。



「うめぇ~!!」

「ビール最高」

「そのエビ食いてぇ!!」



なんやかんや楽しむ俺ら。



今日は俺も酒解禁ってことで。



一緒に日本からやって来たスタッフも、楽しそうで何よりだ。



「最近どうなんだよ、片想いの方は」

「さぁ?この前家に呼んだら終始ビクビクしてた」

「「呼んだっ!?」」

「仕事って名目だったけど」



進展してんのか?



駿太郎のことだから自己満足だろうけど…。



「新婚はどんな感じ?」

「同棲してたし。対して変わらん」

「セイナは尽くすタイプだからな~。料理とかスゲー頑張りそう。どっかのお姫様と違って」

「確かに。結婚してから新しいメニュー増えたかも」



どっかのお姫様って、うちのシュリか。



この前朝からメシ作らされたっけ…。



お姫様だな、アイツ…。



「恋バナなんて珍しい…」

「そういうお前はどうなんだよ、小林」

「俺は順調ですけど?カワイイっス」

「のろけはいらん!!誰か不幸な話してくれ!!それ聞いて楽しむから」

「リキさん、病んでますね」



まぁ、みんな大人になったってことかも。



遊んでる時期は終わったな。



俺も今はかなり落ち着いてるし。



シュリと出会わなければ遊んでたかもしれないけど。



「そういえば澪王ってヒカリとなんかあった?」

「歌手の?特に何も?昔遊んだような、遊ばなかったような…」

「この前会ったらやたらお前のこと聞いて来たから」



ヒカリって…ヤったっけ?



歌姫とか呼ばれてて、相当売れてるらしいけど。



顔も美人で、かなりの人気者。



昔遊んだかも。



「リキん家で飲んだことあったよな?」

「あぁ!!あん時の記憶、超曖昧だわ」

「さすが澪王。俺だったらあんな美人となんかしたら絶対忘れない」

「今のセイナが聞いたら泣くな…」

「お前はいい女食いすぎだから」



シュリがいちばんいい女だけどな。



アイツが20代とかになったら、相当キレイだろ。



「澪王ってマジでどうしちゃったわけ?あんなにとっかえひっかえしてたヤツが」

「シュリに毒された。最近ますますカワイイ」

「確かに顔はな?性格クソだけど」

「それがアイツだから仕方ない」



甘えられるとたまらん。



ヒマがあったらなで回してたい。



こういうのを溺愛っていうんだな。



「今まで澪王に合う女がいなかったってことだろ。シュリちゃんみたいな、性格の方が澪王には合ってたってこと」

「やたら大人だな、既婚者のリーダー」

「既婚者ですから」



俺もそう思う。



今までの女は俺には全部同じに見える。



分かりやすい駆け引きとか、自分をよく見せるためのウソとか。



そんなもんにばっかり会ってた気がする。



シュリは飾らないで、いつでも体当たりしてくるから。



そういうとこが俺は好きなんだと思う。



「じゃ、今日は解散。明日に備えて寝るぞ~」



リーダーの言葉で全員ホテルに戻って寝た。



次の日からは目が回る忙がしさ。



移動とか取材とか、そしてライブとか。



最高に楽しかった海外遠征はあっという間に終わって、久しぶりの日本。



シュリは大丈夫だろうか…。



お互い仕事に集中しようと、シュリから言い出したので、連絡は取らない約束。



泣いてねぇだろうな…。



また他のモデルに身長のこととかでバカにされたりしてねぇよな…。



初海外のユウリも心配だし。



疲れて体調崩したりしてなきゃいいな…。



俺はただ信じてやるしかできなくて。



待つこも数日、やっと双子の帰宅。



なぜかふたりともサングラス。



「おかえり…?」

「「ただいまぁ~!!」」



シュリだけかと思えば、ユウリにも抱きつかれた。



相当気を張ってたんだろうな…。



「楽しかったか?」

「澪王さん、セリちゃんに会いたい…」

「はぁ!?」

「僕、もう限界…。澪王さんに会って安心したけど、セリちゃんに癒されたい…」

「今からか!?」



夜中なんだけど…。



でもユウリがそんなこと言うのは珍しい。



相当疲れてるのかも。



「今から来れんなら迎えに行ってやるか?酒飲んでねぇし」

「聞いてみるから、シュリとイチャイチャしてていいよ」



そう言って部屋に行ったユウリ。



シュリは相変わらず抱きついて離れない。



「お疲れ、シュリ」

「会いたかった?」

「会いたかったよ」

「あたしも会いたかった…。世界は冷たいよ~!!澪王のそばでぬくぬくしてたい!!早く嫁にして!!専業主婦になるから!!」



今回もいい思いはしなかったらしい。



まぁ、わかってたことだけど。



「甘やかしてやるから。頑張ったんだな」

「頑張った…」



弱ってる…。



そのあとに迎えに行ったリンリンは、風呂にも入ったらしく、寝る間際だった。



「悪いな、ユウリのわがままに付き合わせて」

「いえ、嬉しいですから。ユウリ先輩、どんどん有名になっちゃうし…」

「だからって、ユウリのわがままに付き合う必要はねぇよ。こんな時間に呼ばれたら誰だって迷惑だろ」

「あたし、ユウリ先輩に必要とされてることが安心材料なんです。だから断れない」

「親は?」

「ちゃんとユウリ先輩のとこにいくって言いました。先輩って、お母さんに気に入られてるから」



そう言って笑うリンリンは、少しだけ寂しそうに見えた。



リンリンは一般人で、ユウリはどんどん名前が知られて行ってる。



それで不安になる気持ちは、俺には理解できないからな…。



「セリちゃん!!」

「お疲れ様でした、ユウリ先輩。お風呂入ったんですか?」

「会いたかった…」

「ちょっ、先輩…?」



珍しくユウリが感情で動いてる気がした。



抱きつかれたリンリンは泣きそうな顔をしていたけど、それ以上に幸せそうに見えた。