そんな女連れてくんな!!



そう思ったのに、モネはラッシュプロデュースらしくて。



澪王と駿太郎が手がけてるから、他のメンバーは会うのが初めてだったみたい。



「駿がイジメるから俺に懐いただけ」

「澪王は優しくしてるの?」

「まぁ、褒めて伸ばしてる感じ」

「あたしも褒めろ!!」



ムカつきすぎてキスした。



澪王は他の女にやんないから。



褒めるのもあたしだけにすればいいのに。



「ヤキモチ?」

「超好きなの。早くお風呂!!」

「わかったよ。アツシ、俺ら風呂入ってくっから」



アツシは笑顔で送り出してくれた。



この感情はヤキモチっていうのか…。



澪王を独占したくて、誰にも触らせたくなくて。



いつもはこんな気持ちにならないのに…。



一緒に入ったお風呂で、無言のあたし。



「俺はお前だけだよ」



そう言われたけど、納得がいかない。



あたしは澪王じゃないから、心の中まではわかんないよ…。



本当はモネのこと、カワイイとか思ってる?



同じ仕事をしてるわけじゃないから、澪王の忙しさとかわかんないし…。



あたしは、ちゃんと愛されてるの?



「浮気したらヤダ…」

「しねぇから。そういうので、シュリのこと泣かすのはなんか違う気がするし」

「チュー!!」

「ん」



ずっと離されたくない。



このまま腕の中に閉じこめといてほしいよ…。



ヤキモチって怖いなぁ…。



お風呂から出たら、リビングはいつものごとく酒臭い。



ユウリが久し振りに腕を振るって、おつまみがたくさん並んでる。



ユウリの隣に立って、少しだけ手伝った。



「賑やかだね」

「そうだね」

「前の僕らにはあり得なかった光景。澪王さんがくれたこの環境に感謝しなくちゃ」

「ユウリは大人。なんかあたしだけガキ…」

「シュリはそのままでいいよ。シュリが大人になったら、なんかつまんないからね」



ユウリにはそう言われたけど、やっぱり少しは大人になりたいシュリちゃんです。



ユウリみたいにうまく立ち回れたら、周りに敵だって作らないのに。



「リンリンとも順調?」

「どうかな?そろそろ振られるかもね」

「なんで?」

「あははっ、僕が手を出さないから?」

「まだ…なの!?」

「カラダ以外の付き合いがしたいんだけど、伝わってないし。恥ずかしい妄想ばっかりしてる姿がおもしろくてイジメちゃうしね」



怖い男だ…。



リンリン、可哀想…。



「そう仕向けてるのは僕なんだけどねぇ~…」

「Sだね、ユウリって…」

「うん。泣いてる姿にゾクゾクする。僕のことが好きすぎて泣くなんて、究極でしょ?もっと泣けばいいのにね」



振られてしまえよ。



ユウリに付き合っていけるリンリンって、なにげにすごいのかも…。



「程々にね?」

「うん、わかってる。シュリも澪王さんに対するワガママは程々にね?」

「それはムリ」

「あははっ!!」



あたしの全力を受け止めてくれるのは澪王だけだもん。



だから澪王は大事にしよう。



ワガママは言うけどね!!



【澪王】



歌ってる時、なんとも言えない高揚感を得る。



ハイになって、アドレナリン出まくりで。



あぁ、俺って歌うめぇな~って思う。


ナルシストと言われても、否定はできない。



「相変わらずうまいわね」

「社長、俺らの仕事場くんのなんて久しぶりっスね」



珍しく社長がやってきた。



相変わらず若い…。



そして怖い。



「誰か何かやらかした?」

「澪王じゃねぇの?」



俺じゃねぇだろ!?



最近何にもしてねぇし…。



「澪王、ちょっといいかしら?」

「俺かぁ~…。最近目立った動きしてねぇのに…」



社長とふたり、部屋の外。



まさかシュリのことがバレたとか?



それはさすがにヤバいよな…。



社長のお気に入りのシュリだし。



びくびくしながら社長の言葉に耳を傾けた。



「さて、どうしましょうか」

「うわっ…マジかよ…」

「あの子たちにはまだ言ってないの。実の母親が名乗り出てることは」



見せられたのはスクープ記事。



そこには堂々と顔出ししてる女。



シュリに似てる。



「社長は連絡取ったんスよね?」

「えぇ」

「今更出てきて、引き取りたいとでも?」

「そうみたいよ。あの子たち次第だとは言ったけど」

「俺から話します。親父がどんな手続きしてるかわかんねぇし」

「そうね。この件についてはあなたに任せるわ。くれぐれも、あの子たちを悲しませないようにね」

「そうっスね…」



アイツらは十分苦しんできた。



母親の顔すら覚えてないと言っていたシュリとユウリはどんな答えを出すんだろうか…。



キレんだろうな、アイツ。



部屋に戻って、メンバーには双子のことだとだけ言っといた。



「はぁ…俺って歌うめぇな…」

「うまくなきゃ歌わせてねぇよ」

「よし、歌う!!」



歌って不安を振り払った。



母親んとこに戻ったりしねぇよな?



まずは親父に話さなきゃ…。



ひとりになって電話をしたら、親父は忙しかったらしくて。



「ふたりのしたいようにできるから。私は権力者だからね」



頼もしいよ、親父…。



気分が乗らないまま家に帰ったら、ユウリがキッチンにいて。



「おかえり、澪王さん」

「久しぶりじゃん、ハンバーグ」

「いっぱい食べてね」

「なんでハート型…?」

「へへっ…」



なんか嬉しそう…。



いいことでもあったんだろうか…。



言いづらい…。



「シュリは?」

「仕事だよ」

「何時帰りだ?」

「そろそろだとは思うけど」



先に風呂に入り、シュリを待ちながら先にユウリとメシを食った。



相変わらずうまいユウリのハンバーグ。



ここは俺とお前で買った家だよな?



ふたりでローン返していくんだよな?



いなくなったり…しねぇよな…?



「澪王さん?なんかあった?」

「なんで?」

「元気ないね。あっ、ビール忘れてたから!?」

「今日はいい。まぁ、シュリが帰ってきたら話すから」

「うん?わかった」



それからしばらくして、シュリが帰ってきた。



ユウリもシュリも風呂に入って、寝る準備はバッチリ。



言わなければ…。



「ちょっといいか?」

「「なに?」」

「まぁ、適当に座れ」



なぜか俺の膝の上に座るシュリ。



不安そうな顔で俺の隣にぴったり座ったユウリ。



なぜこのポジション…。



普通、正面だろ…。



「なんか聞きたくない…」

「僕もヤダ…」



お前らも不安なわけね…。



どこまでもカワイイヤツら。



「今日社長から言われたんだ。お前らの母親が週刊誌に出る」

「「はい!?」」

「記事の内容はよく見なかったけど、お前らを引き取りたいって話だ」

「「ヤダ」」

「なんなんだよ、ムダにシンクロ率高いな…」

「僕は絶対ヤダよ。今更母親とかいらないから。何様だかしらないけど、僕は絶対ここにいる。そんなの無視してくれればいいのに」



ユウリがこんなに怒るのは初めてかもしれない…。



てっきりシュリがキレると思ってたら…。



「あたしも澪王といるもん。ママがあたしたちのこと捨てたんだよ?都合よすぎ。はい、終了」



そうですか…。



先に寝ると言ったユウリが部屋に行ってしまった。



「怒ってるね、ユウリ」

「ん…」

「お話してきてあげてよ。なんだかんだ、ユウリがいちばんママっぽいことしてくれてたんだもん…」

「ちょっと行ってくる。シュリは先に部屋行っとけ」

「はぁい」


あまりショックも受けてないようなシュリにホッとした。



単純なシュリより、ユウリの方が難しいのかも。



コンコンッと部屋をノックすると、顔を出すユウリはいつもと違う顔つき。



「少し話すか」

「うん…」



招き入れてくれたユウリの部屋には自分で買ったデッカイテレビと、プロジェクターにスクリーン。



ユウリくん、マジで儲かってます。



「いつの間にソファーなんて置いたんだ?」

「この前セリちゃんと選びに行った。ベッドしかないから座れるとこをね」

「座り心地いいな…」

「ビール持ってくる?」

「ん」



部屋から出てったユウリが俺にビールと、自分に水。



気が利く男…。



希王よりできた弟だよ、お前。



「腹立ってんのか」

「まぁね。今までほっといたくせに、僕がちょっと有名になったからって引き取るとか、魂胆見え見え」

「会いたいとは思わねぇ?」

「僕を産んだだけの女にどうして会いたいと思うの?父さんは母さんのこと、悪く言ったりしたことはないけどさ…」

「うん」

「今更出てきて、僕がしてきたこと、全部チャラにされたくない。家事だってほとんど僕がやってた。小さい頃から…」

「そうだな」

「できることなら消えてほしいよ。母親に対して、僕はなにも求めてないから」



これはマジだな。



ユウリは母親には絶対会わないだろう。



「あっ、でもシュリは別だからね?シュリが会いたいなら会えばいい。一緒に暮らしたいなら、そうすればいい」

「それでいいのか?」

「僕はシュリじゃないから。シュリの気持ちを尊重してやるのは当たり前でしょ?」

「わかったよ。俺もお前と離れて暮らすのはイヤだしな」

「澪王さん…」

「カワイくてしょうがねぇんだ、ユウリが」



照れたように笑ったユウリに一安心。