澪王は年末はとりあえず忙しすぎるって言ってたから、クリスマスなんて楽しみでもなかったけど…。
「何時まで?」
「夜中までかかるかもな」
「ヤダ…。パーティ行きたい…」
「仕事だろ。諦めろ」
「調節できるでしょ!?」
「そういうことは一人前になってから言え。ペーペーのガキのくせに」
なにも言い返せない。
あたしの都合で迷惑かけちゃダメなんだってのはわかってるけど…。
「わかった…」
「珍しく暴れないな」
「暴れたことない!!」
「はははっ!!大人になったな。早めに終わるようにしてやる」
ウソ…。
レイさんが笑ってあたしのワガママ聞いてくれた!?
明日は雪?
『遅くなってもいいなら行けるかも』
リムにはそう送っといた。
なんか楽しみだなぁ~。
「嬉しい…。ありがとう、レイさん」
「お前っ…バカか…」
照れてるようにも見えたレイさんが意味わかんない。
あたしだってお礼くらい言えるもん。
その話を真夜中に帰って来た澪王に話した。
「男がいるってのが微妙だけどユウリがいんなら安心だな」
「それって束縛~?」
「あ!?」
「澪王だって女と飲み行くじゃん。合コンとか好きって噂だし」
「誰から聞いたわけ?」
「セイナ」
「だから合コンは付き合いだって。駿太郎とリキのため?」
「なんで疑問系?澪王ってウソつくと即バレするタイプだね」
「お、俺は浮気はしねぇよ…」
したら許さないけど。
合コンくらい何とも思ってないからいいんだけどさ。
「まぁ、楽しんで来い。ちゃんと家に帰れよ?」
「うん!!」
「で、お前はなにが欲しい?」
「急になんの話?」
「クリスマスだろ。一緒にはいられねぇけど、プレゼントくらいは用意するから」
「クリスマスプレゼント…。澪王とお揃いの何か!!」
「わかった」
あたしも澪王になにかあげたい。
もらってばっかりだし…。
自分で稼ぐようになったから、少しくらい恩返しの意味も込めていいよね?
次の日からは澪王の欲しいモノをリサーチ。
「澪王くんが喜ぶもの?」
「うん。何かないかな?」
「澪王くんのこと、あんまりよく知らないんだよね、あたし」
セイナはダメらしい。
次はユウリ。
「ハンバーグ…?」
却下。
よし、希王だ。
「兄さんの好きなもの?」
「何か思いつかない?」
「ギターはいっぱい持ってるし…。ん~…女?」
「テメー、マジシネ」
話にならん。
もう自分で探すもん。
仕事中にも悩み、家に帰ってからも悩む。
困ったな。
思いつかない。
「澪~王」
「ん?」
「澪王はなにが好き?」
「シュリ!!」
「は…?」
「ってことで、今から俺に食われてくんない?最近忙しくてムラムラしてんだよ」
「ちょっ…」
「いただきます」
信じらんないバカ。
こっちはこんなに悩んでんのに!!
「明日早いからヤダっ!!オヤスミ!!」
「いてっ!!なにキレてんだよ…」
このアホ澪王~!!
【澪王】
ネットで探すクリスマスプレゼント。
女に対して何かをやるってのもあんまりなかったのに。
「コレいい感じ…」
「シュリちゃんっぽくない。お前が欲しいだけじゃね?」
「うるせぇ!!お揃いって言われたら自分のことも考えるだろ」
「それにしてもさすがにゴツいだろ~…」
俺に合わせるとシュリに合わない。
シュリに合わせると俺に合わない。
アクセサリーは却下か…。
「どうでもいいんですけど、そろそろ時間です」
「「うぃ~」」
ダラダラと仕事をする。
年末、いろんなとこで歌いすぎて喉いてぇし。
このままだと潰しそう…。
そんな俺たちに、休みなんてもんはなくて。
クリスマスは当たり前のようにシュリとは一緒に過ごせない。
「アツシはプレゼント、なんかやんの?」
「結婚指輪買った」
「お前は悩まなくていいな…」
「まぁな。セイナも忙しいし」
結婚する予定のアツシはもう買ってあるらしい。
セイナは成人してるし、酒も飲めるし…。
大人って部類に分けられるわけだから、シュリみたいなガキより幅は広い。
去年のアツシは、お揃いのグラスをあげたんだとか。
マジでどうしよ…。
「ユウリには決まったのに…」
「なにやるわけ?」
「物欲のねぇユウリが珍しく欲しがってたパソコン」
シュリにはなにをやったらいいか…。
お揃いって難しいもんだな…。
服とかかなりもらってるし…。
下手なものあげて、シュリの機嫌が悪くなるのもイヤだ。
「ネックレスかブレスレットだろうな…」
「香水とかもアリじゃね?」
「なくなるモノは喜ばない気がする…。よし、やっぱりネックレスを探す」
ってことで探し始めたネックレス。
やっと納得するモノに出会ったのがクリスマスの5日前だった。
ギリギリだったな…。
それからもバタバタと忙しい日々。
「澪王、声出てねぇぞ」
声が出ないなんて、最悪だ…。
おまけに風邪をもらい、気分も体調も最悪で。
23日、今日も仕事だという日。
「なんか今日気合い入ってね?」
「夜にパーティ!!カワイイ?」
「あぁ、そうか。楽しんで来いよ」
「澪王は風邪ひいた?声、出てないよ」
俺がいちばんわかってるって…。
このクソ忙しい時期に最悪だ…。
無言で差し出された体温計で熱を計ると微熱…。
「歌えるの?」
「意地で」
「壊さないでね?」
「おぅ…」
機嫌がよすぎるのは、パーティがあるからか?
さぁ、仕事に行くか…。
迎えに来た車に乗り、ひたすらのど飴。
メンバーに白い目で見られてる俺…。
「言いたいことはわかってる…」
「歌う時まで喋るな!!タバコなんて吸うなよ!?本番までにマシにしとけ!!」
わかりました…。
頷くだけの返事で、迎えた本番はやっぱり声が出ない。
意地で歌ったけど、最悪の出来。
とりあえず、全員からペシッと軽くひっぱたかれた。
でも仕方ないじゃん…。
喉弱いのなんて昔からだし…。
「『今日のレオどうした?』『ガラガラじゃねーか』『プロとしてどうなの』『聴くに耐えない』その他、視聴者の意見をネットで見てみました~」
「やめてくれ…」
「自己管理しろっての」
「たまにはいいだろ!!風邪をひいた声もセクシーだ」
「今から行く焼き肉屋、お前の奢りだからな」
「はぁ!?」
「「当たり前」」
迷惑をかけたヤツがメシを奢るのは、いつからか俺らの中で当たり前のことになってる。
それはいろいろな場面で適応されて、週刊誌に載ったり、寝坊したりしたヤツも対象。
この時ばかりは全員がアホみてぇに食いまくり、かなりイタイ出費になる。
「わかった…」
「『あの声であそこまで歌えんだからやっぱりすげー』とか『必死なレオもオツなもんだ』って意見もあったけど」
「今更嬉しくねぇ!!」
「肉食って早く治せよ~。焼き肉に出発~」
12月の出費がハンパねぇ…。
それから日付も変わり、家に帰ったのは夜中の3時。
酒も飲まず、食ってから隅っこで寝てた俺。
もう風呂は明日でいい…。
そう思いながら、リビングに足を踏み入れた。
「お帰りなさい」
「は…?」
「今日の生、最悪だったみたいですね」
「何でお前が…うちにいんだよ」
「シュリを送って来ました。仕事が長引いて、パーティに間に合わなかったんです」
レイがいる。
何でただのマネージャーがうちにいんだよ…。
「意味わかんねぇ。送ったなら帰れよ」
「相当泣かせてしまったので」
「だから?」
「すみません。俺もよくわかんないです。ただ、離れたくなかっただけですかね」
「調子に乗ってんじゃねぇよ。アイツは俺んだ。宣戦布告なら受けて立ってやるよ」
「嫌われてるの、自分でもわかってますから。あなたが羨ましい…。帰ります」
立ち上がって頭を下げたレイは、コーヒーを飲み干した。
レイにコーヒーを出したのはユウリか…。
ユウリが家にいることに一安心。
だけどイラつきは治まらない。
「オイ」
「はい」
「なにがしてぇ?シュリを自分のものにでもしてぇのか」
「そうですね…。それはありますよ」
「アイツはお前なんか見ねぇよ」
「マネージャーで満足してるつもりなんですけどね…。気持ち、コレ以上押さえるのムリっぽいです」
「シュリになんかしてみろ。お前、マジで殺すぞ…」
「ははっ…怖っ…」
帰ってったレイにイライラ。
静かに部屋のドアを開けたら、シュリがうずくまるようにしてベッドにいた。
着替えもせずに、小さくなって…。
「シュリ?」
「うぅぅぅ~…」
泣きながら抱きつかれた…。
寝てねぇのか…。
「残念だったな」
「行きたかった…」
「ん…」
「せっかく…初めて友達と…」
「そうだな。でも仕方ねぇ、仕事だったんだから」
「あたし悪くないのにっ!!あのカメラマンが遅刻なんかするからっ!!キレて帰ればよかった!!」
「そうしなかったシュリは偉い。ちゃんと仕事したんだろ?」
コクコク頷くシュリを抱きしめた。