澪王が純愛映画なんて変じゃないかと思ったら、主題歌を歌ってたからってオチ。
なんとも澪王らしい。
恋愛なんかに興味がないのか、ユウリは隣で眠っていて。
あたしはワクワクドキドキしたけどな…。
「ユウリ、お部屋で寝る」
「ん、終わった…?」
「お部屋行こう」
それぞれの部屋で寝る。
シンプルなベッドに、クローゼットしかない。
それでもあたしには居心地のいい場所。
買ってもらったケータイを充電して、早く澪王が帰らないかと期待しながら眠りにつく。
目が覚めたのは物音。
1階からなんか聞こえる…。
お仕事部屋だから入るなって、澪王が言ってた。
だけど澪王におかえりが言いたくて、昨日買ってもらった服に着替えて1階に降りた。
初めて開けた重たいドア。
「澪王…?」
「うわっ!!誰…?」
知らない人が3人。
ど、どうしよ…。
「澪王は…」
「かっわいい~!!なに!?澪王のセフレ?」
「澪王…」
「澪王、美少女が呼んでる~」
大人の人ばっかり…。
呼ばれた澪王は眉間にシワ。
怒ってる…。
「なにしに来た」
「おかえり…」
「用事ねぇならくんなって言っただろうが。上あがっとけ」
「バカ…。澪王、嫌い!!」
顔が見たかっただけだもん…。
おかえりって言いたかっただけだもん。
久しぶりに涙が溜まる。
2階に戻ると、起きたばかりのユウリが慌ててる。
「どうしたの!?」
「澪王、怒った…。おかえりって言いたかったっ…」
「1階は仕事部屋だから立ち入り禁止って言われたでしょ?」
「うんっ…」
「迷惑かけたら僕らここにいられなくなるよ」
そっか、そうか…。
あたし達の存在は澪王には迷惑なんだ。
ワガママ言っちゃダメなんだ…。
「あたし澪王に嫌われた?怒ってたっ…」
涙が止まらない。
澪王に嫌われるのイヤ。
「後でちゃんと謝ればいいよ」
「ん…」
「シュリは澪王さんが好きなんだね」
「好き…」
「それは恋愛対象なの…?」
「知らない。でも、澪王は好き。正直者でウソつかない」
苦笑いのユウリだった。
それからしばらく、やってきた澪王はドカッとソファー。
謝らなきゃ…。
「ごめんなさい…」
「なに泣いてんだよ」
「だって、澪王が怒った…」
「悪かったよ。徹夜だったから俺も少しイライラしてた」
「撫でる…?」
「何でそうなる?」
「仲直り…」
「はいはい、おいで」
澪王の『おいで』にきゅんとした。
隣に座ると優しく頭を撫でてくれる。
「お前はなんなんだ?全く掴めねぇな」
「シュリだよ」
「シュリだな。ガキはよくわかんね…。ねっみぃ~…」
「お仕事行かないの?」
「2時間寝たら出る。ユウリ、朝飯よろしくな~」
あたしをソファーから下ろした澪王は、そのまま横になった。
その上に乗って、ギュッてされたら、どれだけ幸せだろう…。
澪王が眠るソファーの横に座り、ただ寝顔を見ていた。
あたし、澪王に惹かれてる?
恋なんてしたことないからよくわからないけど、昨日見た映画みたいに、なんだかドキドキした。
【澪王】
世間は俺を悪い男として評価する。
知り合ったモデルを片っ端から食ってるとか、学生時代は超ヤンキーとか。
どうやら、世間の目に俺は破天荒な人間に映るらしい。
それなりに週刊誌の常連なので否定もしないけど。
そんな俺が今はふたりのガキの保護者代わり。
そんなこと、メンバーと事務所、うちの家族しか知らない。
ソイツらに興味津々になったヤツがいる。
「ついに奴隷飼い始めたのか…」
「しかも男と女の超美形。さすが、うちの澪王様はやることが違う」
「エグいよな、マジで」
俺は純粋にアイツらの世話してるっつーの。
それを面白がるメンバー達。
「ユウリです」
「シュリ」
「「こんにちは」」
メンバーと双子、初めての対面。
相変わらず笑わないお姫様のシュリにはなぜか懐かれ、ことあるごとに頭を撫でろと要求される。
ユウリはまだ気を使っているのがわかる。
俺はそんなユウリがカワイイけど。
仕事終わりに、うちの1階で飲みながら次の曲の話し合いをしていた時、シュリが顔を出したのがきっかけで。
メンバーには双子の存在を隠せなくなった。
そしたら会わせろってうるせーし。
「ドラムのアツシさんですよね」
「そうそう、一応リーダーね」
「そして、ギターの駿太郎さんとベースのリキさん」
「「よろしく~」」
「僕、ファンです。お会いできて光栄です」
ユウリは俺たちの音楽にハマり、いろいろ学んだらしい。
一方シュリは無表情でただ座ってる。
「ユウリって男なんだよな?」
「そうですよ」
「キレイな顔してんな…」
「よく言われます。結構いい値段で売れるんですよ、僕」
「ぎゃははははっ!!俺お前好き~!!」
ユウリのギャップで、メンバーのお気に入り確定。
顔に似合わずダークなことを言うユウリ。
「澪王、今日お休み?お掃除したから褒めて」
「シュリちゃん、俺が褒めてやろうか?」
「イヤ。澪王以外興味ない」
毒を吐いたシュリもお気に入り確定…。
ユウリが作ったメシを食いながら、酒。
メンバーはユウリと喋ってて、シュリはなぜか俺にべったり。
「熱ぐるしい」
「ヤダ」
「ヤダじゃねぇよ」
「一緒に寝る?」
「は!?」
「あたし、澪王と一緒に寝たい」
コレはなに…?
俺、シュリに好かれるようなことしたか…?
「抱っこする?」
「俺がお前を!?」
「うん」
「なんで…?」
「抱っこしたいでしょ?」
「したくねぇよ!!」
意味がわからん。
ユウリは大体わかる。
だけどシュリは全く掴めない。
妖精みたいな顔で、剛速球のストレート。
「なんで離れねぇの?」
「澪王、最近いなかったから」
「寂しかったわけ?」
「会いたかった」
無表情だからこそ、なに考えてんのかわかんねぇ…。
その顔でそのセリフはマズいだろ…。
普通、勘違いするから。
まぁ、俺はガキなんか相手にしねぇけど。
面倒は嫌いだ。
夜中になり、解散。
シュリがソファーで眠ってしまい、あまりの美しさにメンバーが写メを撮って帰った。
シュリをどうするかと悩んでいると、ユウリが風呂から出てきた。
「今日、楽しかったです」
「よかった。ところでユウリ」
「はい?」
「シュリはどうしちゃったわけ…?何で俺に懐く?」
「シュリは元から人見知りとか激しいから、滅多に懐かないですよ」
カワイイがゆえにイジメにもあい、友達も作らずに誰にも心を開かないって。
シュリに好意を寄せる男も多いらしく、イジメの原因がそれだったから男は特に嫌いなんだとか。
だから笑わねぇのか。
楽しくねぇから、笑えなくなったのか…。
「お前は?モテんだろ」
「そうですね、それなりに。でも自分の利益になる取引しかしたことなかったしなぁ~」
「安売りすんじゃねぇよ」
「もうしませんよ。僕、純粋に恋愛とかしてみたいですから」
「おっ!?いいね~、若いね~」
「澪王さんだってこれからですよ。じゃ、シュリお願いしますね」
はい!?
ユウリが置いてったシュリを仕方なく抱き上げた。
小さくて軽い体は、まさにガキ。
シュリの部屋のドアが開いてるのは、ユウリが開けた証拠。
ここまで気が回るなら、ぜひこのチビを運んでもらいたかったよ。
静かにベッドに寝かせたら、首に絡みついてきた腕がギュッと俺を絞めた。
「オイ、コラ。離せ」
「ヤ…」
見かけに寄らず力が強い。
全く離す気がないのか、その力は更に強まった。
「シュリ、離せって」
「一緒…寝る…」
「バカか。俺はガキと寝る趣味はねぇ」
「子どもじゃないもん…」
「起きてんじゃねぇか。離さねぇなら…」
「きゃははははっ!!くすぐったいっ!!」
くすぐったら笑った。
シュリが笑った…。
離れた腕に安心したのもつかの間、笑うシュリに胸がギュッとなった。
キレイすぎて見とれる。
「意地悪…」
「お前、笑ってた方がいいぞ」
「えっ?」
「大丈夫じゃん、シュリは笑える」
「あっ…」
「早く寝ろよ、ガキ」
なんだ、コレ。
あの顔だな。
顔が卑怯。
万人受けする美少女!!
そうだ、顔のせいだ。
早急に自分のベッドルームへ行き、酒の力も借りてそのまま夢の中。
目覚めはマネージャーの声。
「おはようございます、今からお迎えに行きますので」
「何分…?」
「20分後です」
「了解…」
朝はダメだ、起きたくねぇ…。
昨日の酒も抜けてない状態で、バスルームに直行してシャワーを浴びた。
リビングにはユウリの作ったメシ。
コイツら、学校か。
「おはようございます、澪王さん。ご飯食べます?」
「味噌汁だけでいい。時間ねぇんだ」
「今日は帰り早いんですか?」
「わからん。帰るときは連絡入れる」
「わかりました」
シュリの姿はベランダにあって。
洗濯物を干していた。
コイツらが来てから、一切家事をやってない俺。
まぁ、率先してやってくれんだからいいか。
「澪王、下にお迎えの車来た」
「ん、出る。洗濯ご苦労」
「ふにゃ~…」
撫でると喜ぶシュリにまた胸が…。