気がついたら夕方になっていた。
いつ寝てしまったのか、覚えてない…。
隣に澪王がいなくて、適当に服を着てリビングに出たらユウリとリンリンがいた。
「澪王は…?」
「お仕事行くって、さっき出て行きましたよ」
起きたかったのに…。
だけど体のダルさが起きられないことを物語っていた。
「澪王とエッチするとめっちゃ疲れる!!」
「だから澪王さんがニコニコしてたんだね~」
「ご機嫌だったの?」
「うん、朝のヤクザ顔とは似ても似つかないくらいね」
よかった…。
あたしで満足してくれた。
尽くすって、こういうことかな?
誰かの為に何かをするなんてあり得ないって思ってたけど、澪王が喜ぶなら妥協してやってもいいかな?
気分いいし。
「か、会話について行けませんっ…」
「リンリンピュアっ子?超顔赤くてカワイイ。ユウリはきっと優しいから大丈夫だよ」
「いやぁぁぁぁ!!」
そんなリンリンの姿を見て面白がってるユウリは、実は優しくないかもしれないとちょっと思った。
澪王は優しくないよね。
イヤがることするし。
組み敷かれたら絶対勝てないし。
澪王があたしよりも上って、納得いかない。
「奴隷にしてやろうかな…」
「「誰をっ!?」」
「イヤ、今日ので少し反省したから召使いくらいに…」
「「だから誰を!?」」
「澪王に決まってるでしょ。あたしに従順な犬にでもしてやりたいよ」
「「…………」」
飼い主に忠誠を誓って、絶対裏切らないの。
そんなの、絶対ステキ!!
「シュリ、そのうち澪王さんに逃げられちゃうよ…」
「そうだよね~…。実は澪王が主導権握ってんのかなって、ちょっと感じちゃったし…」
「僕らよりも大人だから」
「惚れたあたしが負けたのかな…」
「でも心地いいでしょ?心が縛られるって、僕は嫌いじゃないけどね」
「確かに…」
好きだって言えば応えてくれる関係だし。
澪王が自分の意志をもってなかったら、あたしはきっと澪王のことを好きにはなってない。
前は散々突き放されたわけだし。
初めからあたしの誘いに乗るような男なら、その時点であたしは冷めていたかもしれない。
澪王はあたしの顔じゃなく、心と向き合ってくれてるんだ…。
「今度澪王が帰ってきた時はあたしがハンバーグ作る!!」
「「えっ…」」
「練習するからしばらくハンバーグね!!」
頑張って澪王を喜ばせてあげたい。
コレが好きってことなんだろうな~。
その日、寝る前にセイナから電話が来た。
「もう学校始まっちゃうんでしょ?」
「うん」
「いつ泊まりに来る?」
「セイナに合わせる。いつがいい?」
セイナとお泊まりの約束。
2週間後、セイナとアツシのお家に行く約束をした。
次の日からは夏休みの宿題を頑張って、いろんな気持ちを知った夏休みが終わる。
もうすぐあたしとユウリは17歳。
秋にはどんなことがあるのかな?
澪王と知り合って、あたしの世界が広がったよ。
たまには素直に謝らなきゃいけないこともね!!
【澪王】
忙しかった夏が終わり、やっと仕事が楽になった。
家に帰った俺の目に飛び込んできたのは、不機嫌な姫。
ソファーに横になって、帰ってきた俺を完全無視。
何かした記憶はないわけで…。
「なんなの、アレ…」
「生理痛がひどいって言ってて、朝からあんな感じ」
生理痛って…。
俺は男ですし。
ハッキリ言って、わかりません。
「シュリ、ただいま」
「…………腹痛い」
「薬飲んだのか?」
「鎮痛剤がない」
そう…。
買ってきてやるか…。
なにも言わずに家を出て、近くの薬局で薬を買った。
俺って優しいよな…。
超シュリに甘い…。
また家に帰って、シュリに薬を渡した。
「腹痛い…」
それしか言わないシュリが薬を飲んでからまたソファーに横になってて。
ビール片手にシュリのそばに座った。
「あぁぁぁ~…」
苦しんでます…。
今までこんなことなかったわけで。
大丈夫か…?
すると、シクシク泣き出した。
可哀想…。
「死ぬ…」
こんなに静かなシュリ、うちに来た時以来だ…。
どうしたらいいかわからない!!
「んなぁ~…。寝る…」
「俺の部屋か?」
「自分とこ…。おやすみ…」
うわぁ~…。
マジでひどそう…。
「ユウリ、どうしたらいいかわかんねぇ…」
「僕もわかんないよ。あんなになったことないもん」
「俺ら男だし…」
「うん…」
仕方なくひとりで寝た次の日、シュリが普通に朝飯食ってた。
腹痛いんじゃなかったのか…?
「おっはよ!!」
「おぅ…」
「澪王、目玉焼き食う?食わないならあたし食っていい?」
「いや、食うけど…腹は?」
「今日は痛くない。目玉焼き、食うの?」
「わかったよ、食っていいよ…」
「わぁい!!」
シュリって目玉焼き好きだよな…。
元気になってホッと一安心。
「今日休み?」
「夕方から。お前ら学校か」
「うん」
ヒマだな…。
それに、明日は土曜日で学校が休みだからと、今日はセイナんちに泊まりに行くらしい。
「お前とセイナね~…」
「おかしい?」
「いや、別にいいけど。アツシがシュリに影響されたらって言ってたし」
「あたしから見たらセイナは我慢しすぎだから!!アツシの言いなりじゃん」
「俺はよくわかんねぇけどな…」
リーダーだけあって、アツシは厳しいし。
いちばんしっかりしてるのもアツシ。
女の教育もちゃんとしてんだろうとは思ってたけど。
「迷惑かけんなよ?」
「うん!!セイナんち初めてだから楽しみ~」
「でけぇぞ、アイツんち」
「ふぅん」
高級マンションのふた部屋分を使ってるし。
俺も家とか買っちゃおうかな~。
「お前らの部屋もデカくしてやりてぇな…」
「僕は満足だよ?今日はセリちゃん泊まりに来るんだ」
「おっ!?ついに」
「するわけないでしょ?そういうのを想像だけして恥ずかしがってる姿を見るのが楽しいんだから」
ユウリ、ドSだな…。
ふたりが学校へ行ったら、俺はヒマで。
日々の疲れを癒すためにゆっくり風呂に入ったり、自分の部屋を掃除して過ごした。
アイツらが帰る前に俺は仕事へ。
今日はテレビで、他のミュージシャンと適当に挨拶。
なんか疲れた…。
「頭いてぇ…」
「風邪ですか?」
「疲れてんじゃね?」
「病院行きますか?」
「大丈夫だろ。明日から大した仕事ねぇし」
「なら送ります。早く寝てもらえるように」
他のヤツらが飲みに行くなか、俺だけ早めの帰宅。
だりぃ…。
リビングにはユウリとリンリン。
そういやリンリンが泊まりだった。
気ぃ使えばよかったな…。
「おかえり。早かったね」
「だりぃからな」
「具合悪いの?大丈夫?」
「ん、俺は寝るから楽しんで」
風呂にも入らずに爆睡。
ユウリのことなんて気にしてる余裕もなくて。
着信の音で目覚めると、マネージャーからだった。
もう仕事の時間か?
「ぁい…」
「声、微妙ですね」
「まぁ…」
「体はどうですか?」
「熱い…?」
「えっ、熱出ました?」
「今起きたからわかんね…」
「困ります。今日収録あるんですよ?」
わかってる。
今すぐ治してやるよ。
「後何時間?」
「2時間です」
「迎えよろしく。声は何とかしとく」
「頼みましたよ」
起きあがって、とりあえずバスルーム。
めちゃくちゃうがい。
喉いてぇ…。
声、出っかな…。
とにかく風呂に入って最大限の加湿をする。
1時間風呂に入ったら体力がヤバい…。
効果があるのかは疑問だけど、とりあえずホットタオルを口に当ててバスルームを出た。
「おはよう、澪王さん。なにしてるの…?」
「声ヤバい。加湿」
「大丈夫…?」
ダメだから声を出したくない。
できるだけ喋らずに、ストックしてた薬とのど飴。
次に声を出した時はちゃんと出ることを祈る。
マスクをつけてから熱を計った。
38度!?
うん、気のせいだな。
仕事に行かねば…。
タバコもやめて、昨日は酒も飲まなかったのに!!
たまにこうして自然と風邪をひいてしまう俺。
どうやらそれは俺だけじゃなかったらしくて。
「風邪か?」
迎えの車に乗り、アツシに言われて頷いたら、後部座席を指さした。
リキが死んでる。
冷却シートを貼って、マジで苦しそうだ。
「病院、すぐに診てもらえるように手配しといたんで、先に行きますね」
マネージャーの配慮で、まずは病院。
俺もリキも風邪だと言われ、解熱剤をもらった。
それをすぐに飲み、寝ながら仕事に向かい、リキと俺は体調の悪さを隠しながらの仕事。
何とか終わらせて、次の現場へ。
雑誌の撮影とインタビュー。
死ぬ死ぬ死ぬ…。
もう無理。
薬が切れた。
体熱いし、頭ガンガンするし。
さっき歌ったせいか、声も最悪の状態。