確かに言い方には問題があるとは思う。



でもあたしが悪いの?



言い寄られて迷惑してるのに?



「今の聞こえてんだけど」

「だって…」

「俺がこんなとこで迫ったのが悪いわけで、シュリちゃん悪者にすんなよ」



へっ…?



涙が一気に引いた。



何であたしを庇うの?



傷ついたのは自分でしょ…?



周りが一瞬にして何も言わなくなった。



「俺、フられても諦める気ねぇもん」

「うるさいよ…」

「ねぇねぇ、友達から始めるとかは?」

「友達いらん」

「いいじゃん、友達くらい~。俺の名前覚えてる?」

「知らない」

「鈴木リムだって」

「初めて聞いた」

「結構モテんだけどなぁ~…」



悪いヤツではなさそう。



軽そうでヘラヘラしてるだけで。



「シュリちゃんの教室そっちだよね?」

「さよなら」

「冷たいっ、寒いっ、酷いっ…」

「…………酷いこと言ったのに、庇ってくれて嬉しかった。じゃあね、リム」

「シュリちゃ…」



友達か…。



その日、家に帰ると澪王は久しぶりの仕事で留守。



朝よりも顔色がよくなってるユウリと、フルーツたっぷりゼリーを食べる。



「ユウリ、クラスにリムっている?」

「鈴木リム?」

「うん。仲良し?」

「特別仲良しってわけじゃないけど、リム君いい人だから好きだよ」

「いい人なんだ…」

「偏見なく誰にでも声かけるし、クラスにいると明るくなるし。なんでリム君?」



言っていいのかな…。



でも相談する相手とか他にいないし…。



「前に告られた」

「本当に!?リム君から!?」

「うん。今日も告られてね…」



朝の出来事をユウリに話した。



どうしたらいいのかわかんないんだもん。



正直、あたしもリムをいいヤツだと思っちゃったし…。



「友達からって言われたんだけどさ…」

「友達になる気がないなら相談しないでしょ?シュリは嬉しかったんでしょ?」

「でもリムはあたしのこと好きって言う…」

「どうしたいのかは、シュリ次第。普通の友達としてはおすすめするけどさ」



悩みます。



澪王に対してなんだか少し後ろめたいし…。



あたしを好きじゃなかったらすぐに友達になってると思う。



「ある程度距離があれば友達でもいいんじゃないの?」

「へっ!?」

「興味なかったらすぐ切り捨てるシュリがこんなに悩んでるんだもん。答えは出てるんじゃない?」



そっか。



あたし、アイツと友達になりたいのか。



「ユウリに相談してよかった」

「どういたしまして」

「あっ、薬飲んだ!?」

「午前中に澪王さんに病院連れて行かれて点滴2本もしたよ…。薬は飲まなくて平気だって」

「よかった!!ご飯どうする?」

「澪王さんが作ってってくれたサラダと冷製パスタが冷蔵庫にあるよ」



冷たいご飯だ!!



ユウリのこと、ちゃんと考えてくれてる…。



「澪王ってすっかり保護者だね」

「あんなお兄ちゃん、僕には理想だけどね」

「今日帰ってきたら日頃の苦労を労って甘えさせてやろ~」

「あははっ!!シュリが甘えたいだけじゃないの~?」



元気になってよかったね、ユウリ。



【澪王】



仕事が始まると、限りなく多忙。



あの休み期間は早めの夏休みみたいなものだったらしく、3ヶ月先のスケジュールまでビッシリ。



休みがねぇ…。



待て待て待て。



シュリとデートの約束が…。



「ふざけんなっ!!過労死させてぇのかよ!!」

「これでも減らしたんですから…」

「だったらファッション雑誌の特集なんか受けてくんなよ…。俺らミュージシャン」

「仕方ないじゃないですか。こっちにもいろいろ事情があるんですから」



とりあえずマネージャーにキレる。



こんなキッチリ仕事入れやがって…。



シュリになんて言えばいいんだよ…。



「アツシの女文句言わねぇの?」

「言うな」

「どうすんの?」

「仕事と女を天秤にかけたら、俺は仕事を優先するって、初めから言ってある」



男前っス…。



そんなことシュリに言った日には…。



『シュリちゃんより大事なものなんてあるわけねぇよな?』



って、満面の笑みで言われる予感…。



マジでどうしよ…。



「ぎゃははっ!!お姫様がぶちギレそうだな~」

「笑ってんなよ、リキ…。リアルに刺されそうだ…」



そんな俺たち、新曲を出す。



前回のジャケットがよかったから、今回も双子を使おうかと思えば社長からのNG。



『あの子たちをそんなに安く見ないでちょうだい』



撃沈。



どうやら、双子の行く末は社長の中でブランド化されていた。



なので今回は絵が好きな駿太郎に書かせてる、アニメ風な俺たち。



「レオさん、お願いします」

「気分乗んねぇなぁ~…」



レコーディング、やる気が出ねぇ。



それでも先はギッシリ詰まってるので、やるしかないわけで。



夏らしく派手な曲を歌いまくり。



全員が俺の歌に納得するまで歌い、家に帰るヒマなく他の仕事。



マジで帰れる気がしねぇ…。



着替えは車に積んであって、いたる場所で仮眠程度の睡眠。



久しぶりに家に帰れたのは10日も経った頃。



案の定むくれてるヤツが俺の帰宅を待っていた。



フグみたいにプクッと膨らんだ頬。



「仕事なんだから仕方ねぇだろ…」

「超嫌い」



出た、嫌い発言。



想像はしてたよ…。



「そういやシュリ、仕事始まっただろ?」

「澪王には教えない!!」

「はいはい、そんなに怒んなよ。よっと」

「ぬぁっ!?」



担いだシュリを部屋に連れて行き、ベッドに下ろした。



本当は今すぐにでも寝てぇけど、シュリにかまってやんねぇと。



向かい合って小さな手を握ると、今度は拗ねたような顔。



カワイイ…。



「寂しかったわけ?」

「うん…」

「そうか、悪かったよ」

「でもすぐいなくなるんでしょ…?」

「まぁな。明日の朝は早い」

「次はいつ帰る?」

「時間ある時」

「寂しいのヤ…」



そう言って俺の胸に飛び込んできた。



どうしよ、カワイイ…。



疲れすぎててムラムラしてきた…。



キスしたらそのままなし崩しに押し倒しそうだ…。



素直なシュリはマズいだろ…。



もっと怒ってほしかったかも…。



頭を撫でたら顔を上げた。



クリックリの目。



長いマツゲ。



小さな唇…。



「おかえりなさい…」

「ん、ただいま」

「ちゅーは?」

「ん~、少し我慢しろよ?」

「なにをっ!?んんん~…」



満足するまでキスがしたい。



それで我慢しとくから…。



キスしまくって、息が上がってるシュリがカワイイ。



「苦しいよ…」

「ん」

「疲れてる?」

「それなりに」

「このまま寝る…」

「おぅ」



抱きついてきたシュリの頭を撫でてたら、すぐに睡魔に襲われた。



朝は早く起きてシュリを起こさないようにベッドを抜け出す。



シャワーを浴びて部屋に戻って着替えたら、時間がまだ少しあるのでシュリの寝顔。



顔にかかるフワフワで柔らかい髪を退かして、起こしたくないのにキス。



カワイイ…。



ものすげーカワイイ…。



また怒らせんのかと思うと、仕事に行きたくなくなる。



「澪王…?」

「悪い、起こしたな」

「もうお仕事行くの…?」

「ん、まだ寝とけ」



頭を撫でたらすり寄ってくる。



やっぱカワイイ…。



俺の片手に収まってしまいそうな小さな顔。



少し癒されたかも…。



また寝てしまったシュリをそのまま残し、静かに家を出た。



迎えの車に荷物を入れて、仕事に出発。



「ねぇ、澪王。アツシがやたらスッキリしててムカつく…」

「マジかよ。よくあの短時間で…」

「俺も彼女作ろうかな…」



駿太郎は絵も書いてるのでヘロヘロ。



さすがに疲れが溜まってる。



「とりあえず俺、寝る」

「俺も寝る~」



移動は寝る。



起きたら仕事して、仮眠取って、また仕事の繰り返し。



徐々にイライラしてくるメンバーたち。



マネージャーに八つ当たりするものの、慣れてるらしくて軽く受け流す。



もう疲れた…。



忙しくても、メンバー内でのケンカはしないようにしてるため、そこは全員気を使う。



「もうムリ。体おかしくなる。ベッドで寝かせろ」

「今日は近くのホテル取ってます」



俺らのイライラ度合いでたまにベッドが支給される。



シャワー浴びて、ふかふかのベッド。



至福の時…。



酒なんか飲めず、ただ寝るのみ。



シュリ、また怒ってんじゃねぇかな…。



だけど疲れには勝てずにそのまま爆睡。



そんな睡眠を妨げるのはマネージャー。



「シャワー浴びさせろ…」

「時間ないっス」

「5分待ってろよ…」

「5分だけですからね」



寝起きで速攻浴びたシャワーで目を覚ました。



また移動のため、車に乗ってケータイを開くとメールが1件。



『頑張ってるよ』



ユウリから画像が送られて来てた。



そこには仕事中のシュリの隠し撮り画像。



ちゃんとやってんじゃん…。



「何それ、姫?撮影?」

「変な発言してなきゃいいけどな」



マジで…。