アルバムって、おもしろいんだなあ。
私の知らない澪が。
私の知らない澪たちの過去が、そこにはあって。
おもしろいのに。
昔の澪を見れて嬉しいのに……。
ドクドク……。
この嫌な音は、一向に鳴り止まない。
上手く、息が出来なかった。
ねぇ、澪。
私は、自分のこと何も知らないの。
なんとなく貴方に聞いても、すぐに曖昧にはぐらかされてしまうから。
だけどね、ずっとこうして澪といれるなら……私は私なんか知らなくてもいいんだって。
勝手にそう思ってたよ。
決めつけてたよ。
だけどね、疑問を持たないわけじゃないの。
貴方に聞きたいことなんて、本当はたくさんたくさんあるの。
でも、聞けない。
言えない。
きっと口にしたら……何かが壊れてしまいそうだから。
もう、どうしたらいいのか分からなくなってきちゃった。
ねぇ、澪。
私は、誰?
初めて貴方に出逢ったのは、ほんのこの前。
初めてこの世界で目を覚ました私は、この澪と暮らす家という世界しか知らない。
今までここで暮らしてきた貴方との時間が、私にとっての全てだよ。
ねぇ、澪。
どうしてこのアルバムには
居たはずのない私が
たくさん写っているの?
────────────
君を愛そうなんて思わない
だって僕は君を
────────────
澪の過去が載る、そのアルバムの中。
制服を着ている澪の隣。
浴衣を着ている澪の隣。
知景に肩を組まされて、苦い顔している澪の隣。
そこに写っていたのは、紛れもない私の姿だった。
その私は、彼の隣で澪と同じような制服を着て屈託のない笑みを浮かべている。
その私は、彼の隣で綺麗な花柄の浴衣を着ていちご飴を頬張っている。
その私は、彼の隣で澪の苦い顔を見て楽しそうに笑っている。
何枚もめくるページのひとつひとつに。
何枚も貼られている写真のひとつひとつに。
居たはずのない私が、その全てに写りこんでいた。
どうして?
言葉も出なかった。
こんな写真、撮ったことなんてない。
外に出たことすらないのに。
その写真の中で、確かに私は外の世界を、澪の過去を生きていた。
ありえないよ。
こんな記憶、私の中には無い。
混乱と、言い知れない恐怖が入り交じる心の中。
「……悪い子だね、君は」
上から降ってきたその言葉と共に、フッと視界が暗くなった。
それがすぐに、寝ていたはずの彼によって目隠しされたんだと悟る。
暗闇の中、スッと持っていたアルバムを没収されてまぶたの上から彼の手が離れた。
「…………」
「入るなと、言ったはずだ」
「…………」
パタン、と開いていたアルバムを閉じて真っ直ぐに私を見る彼。
その無表情な顔。
怒っているのか。
焦っているのか。
何を想っているのか。
今の私には、そんなことを考える余裕すらなかった。
「……澪」
やっと出たその言葉。
彼はふいっと私の横を通りすぎて本棚へとそのアルバムを戻す。
しばらく沈黙したまま、本棚を見つめた彼。
振り返って向けた、私への視線。
「…………っ」
それは初めて彼が私へ向けた。
冷たさと
"殺意"
彼の瞳の黒に、光はなかった。
「……み、お……」
震えだした肩を押さえようにも、身体が動かない。
勝手に部屋に入ったから。
勝手にアルバムを見たから。
だから怒ってる。
彼が私へ向けたのは、そんな優しいものではなく。
「悪い子には、ちゃんと躾をしないとね」
「……っ!」
妖艶にそう微笑んで近づいた彼は、私を後ろの壁へと押しつけた。