そうだよ……。
今年になってから、手がかり見つけて必死にアイツと交わろうとしたオレよりも、
この棺の中のアイツの方が兄貴なんだよ。
涙を流して悲しむことが出来ないほど、
慕ってる兄貴なんだよ。
悔しさと一緒に、アイツの心を思おうともしない葵桜秋さんが腹立たしくて。
立ち尽くす尊夜の肩にそっと手を添えて、
アイツが一人震えるのを包み込む。
「ほらっ、お前の兄貴なんだろ。
今だけ言いたいこと沢山話せ。
瑠璃垣伊吹の仮面は脱いで志穏として話せばいいだろ。
聞かないで傍にだけいてやる。
だからその後は、また伊吹に戻れ。
お前が自分で決めたことだからな」
そう言うと、アイツはオレに背を向けたまま、
棺に向かって崩れ落ちるように声を上げて泣き出した。
多分、棺に眠るコイツもこんな母親の目を盗むように、
弟を守ってたのかもしれない。
コイツがこんなにも悲しんでるんだ。
だからお前も心配するなって。
この後はオレがコイツを守っていくから。
コイツはオレにとってもずっと弟なんだ。
生まれた時からな。
その名を使うことも名乗ることもないだろうけど廣瀬尊夜。
たった一人のオレの弟なんだ。
コイツが伊吹さん。
アンタと陰として生きるなら、
オレも……俺もアイツの陰として支えていくから。
だから……心配せずに旅立ってくれ。
その夜、オレは一晩中、伊吹として生きる決意を抱いた尊夜の傍、
いや……瑠璃垣志穏の傍で同じ時間を共有した。